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移ろいゆく日常3

「あんたら、飯は食べたのかい?」

「いえ。まだですけど」

「そうかい。ならたくさん作らないとね!久しぶりに腕がなるよ」

ぐっと腕まくりをするとマーダリカはやる気たっぷりに笑顔をうかべる。

「いいんですか?」

お邪魔させてもらうことに加え、ご飯までごちそうになるなんて良いのだろうか。ただでさえ急なことなのに、加えて現在の時刻もかなり遅い時間である。
若干の申し訳なさを感じて、ディーナは遠慮していた。

「いいに決まっているでしょう?大事なお客さまだ。それに、人数が多い方が何だって楽しいだろう?遠慮なんてするんじゃないよ」

そう言うと、マーダリカは優しい笑みでディーナたちを室内へと迎え入れる。

「いらっしゃい」

その温かさに、自然と笑みがこぼれるのをディーナは感じた。





翌朝、窓の外から差し込むまぶしいほどの日の光で目を覚ます。
ディーナはベッドから身を起こし、あたりの風景を見回す。与えられた個室にはベッドや机等、生活をするには十分すぎるほどの家具が一式取り揃えてあった。
誰かが昔使っていたのだろうか、そうぼんやり考えながらぐっと伸びをした。

身支度を整えて一階のキッチンへ向かうと、マーダリカが忙しそうに家事を行っていた。

「おはようございます。マーダさん」

「ああ、おはよう。よく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございました」

「そりゃあよかった。もうすぐ朝食ができるから、待ってておくれ」

「はい」

マーダリカは調理場へ向き、ふたたび作業を始める。
こぢんまりとしているが清潔感のあるダイニングキッチン。真ん中に設置してある四人がけのテーブル。きちんと並べられた食器たち。
普通の家族の、日常の風景。

ほんの少しの懐かしさと、寂しさが心中に生まれる。
――いまさら、どうにもならないというのに。

「あ、ディーナさん。おはようございます」

後ろからの声に、はっと我に返る。
振り向くとそこにはベルトが立っていた。作業をしていたのか、手には大きな籠を抱えており、額にはうっすらと汗が滲んでいる。

「おはよう。ベルト君。朝、早いんだね」

「いや、今日は特にね」

苦笑いをしながら、目の前のテーブルの上に籠を置く。

「昨日いろいろあったでしょ?だから母さんに頼まれてた薬草のことすっかり忘れてさ。そのことでこっぴどく怒られてね……。その罰としてこき使われてるってわけ」


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