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そして夢は泡沫のごとく1

 降り立った金色が、つめたい月光を反射させて何よりも煌めいていた。その強い光が、薄暗い病室に立ちこめていた暗雲をはらって、重苦しい不安を和らげてくれるようだった。
 ディーナたちが司令官自らの突然の登場に驚いていると、開いた入り口ドアから彼を追いかけてリイラとジャルが戻ってきた。

「レオさん、なんで窓から入ろうとするんすか! 不審者だってめっちゃ怪しまれたじゃないすか!」

 慌ててレオを追いかけてきたのだろう、荒い呼吸でジャルは言う。
 そのの言葉の通り、レオが現れたのはドアからではなく病室に二つある窓のうちの一つからだった。颯爽と彼が立っているのは、地面ではなく窓の桟だ。先に診療所にいた二人にはそれに疑問を持つ余裕がなかったため、ジャルに言われてはっとする。

「まあまあ、気にしなさんな。よいしょっと」

 涼しい顔のままジャルを受け流すと、レオは床から少しど高い位置にある桟から年齢を感じさせるかけ声と共に着地する。

「ディーナ、怪我は大丈夫? レオが変な事してごめんね」

 そんなレオの肩からふわり、少女の声がする。
 背中の白い羽根をはためかせ、ディーナの元にメルベルが飛んでくる。

「メル。ありがとう。大丈夫だよ」

「よかった……」

 メルベルが胸をなで下ろすと、レオが靴音を響かせた。

「皆。今回は危険な任務を与えてしまって申し訳なかった。ひとまず、無事にここに帰ってきてくれてよかった。ありがとう」

 先ほどとは打って変わった真面目な声で、レオは慰労を言葉にした。
 ディーナのベッドの前に歩み寄るとおもむろにしゃがみ込み、同じ目線で彼女と向き合う。

「ディーナも、無理をさせてすまなかった。そんな状態の君に頼むのも酷だとは思うが、君が見たもの。あの場で起こったことを俺に教えてほしい」

 帽子の影に隠れた静穏な面差し。そこに在る日輪のごとく燃ゆる強い光に、ディーナはただならぬものを感じた。
 本来ならば、今の彼女は絶対安静が必要な状態だ。痛々しく巻かれた包帯や、血の気の引いた表情が何よりもそれを語る。それでも、彼女の回復を待たずに司令官であるレオがここまで赴いたということは、今の状況がけして悠長に構えてなどいられないものであることを意味している。
 それを理解したディーナは自分が見てきたもののすべてを語る決意をする。そこで知り得た情報。突如として現れたニナとの戦闘。その全てを詳細に語る。
 熱を帯びる背中の火傷はただ語ることでさえ体力の消耗を大きくさせ、彼女の呼吸を荒くする。それでも伝えなければと、その一心でディーナは皆にすべてを伝えた。

「……そうか、ありがとう。ディーナ」

 話を終えたディーナの顔色はすっかり青ざめてしまっていた。あとはゆっくり休むようにとレオが労う。ディーナはそれにうなずくも、気を緩めることなどできなかった。横になることはせず、逆に身を乗り出してレオに問いかける。

「レオさん。教えてください。一体、なにが起きてるんですか? 私、ディルを助けないと……!」

 今にも起きあがりそうな勢いの彼女を、ダズがあわてて押さえ込む。

「ディーナ、落ち着くんだ。今の君はけして動いていい状態じゃないんだよ。自分でも、わかってるんだろう?」

「でも……!」
 
「ダズの言うとおりですよ。ディーナ。今は安静にして、傷を癒さないと」

 ダズとリイラの制止を受けて、ディーナはベッドへと居直る。
 焦燥に駆られる心に、身体が追いつかない。その悔しさを押し込めて、ディーナはレオをまっすぐに見つめた。 
 彼は自分たちが知らない大切な事を知っている。
 それはおそらく、今起こっているすべての出来事を紐解く重要な鍵。
 沈黙が流れる。皆一様に口をつぐんで、レオの返す言葉を待っていた。

「わかった」

 ゆっくりとレオはうなずく。その相貌はどこか神妙で、何かを躊躇うようにも見えた。それからじっくりと間をおいて、落ち着いた声色が響く。

「これから俺がする話を聞いて、君たちの心は揺らぐかもしれない。悲しみや、憤りを感じることもあるだろう。だから、心して聞いてほしい。今から語ることはすべて本当のことだ」



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