暁の鐘なりて13
「今、力で彼らを押さえ込んだところで、かえってこちらの存在を気づかせる事になってしまいます。重力で彼らを足止めしようとか、そう思ったのならば……それは判断としては誤っています」
「でも、よ。どうすんだよ」
図星であった。リイラの指摘の通りの行動をジャルは起こそうとしていたのだ。それ以外の方法を彼は思いつけない。最善の策は何か、問うことしかできないジャルの瞳は焦っていた。
その視線を受け、リイラは数秒思案する。そして、彼女の出した最善は。
「……わかりました。ジャル。暴れてください。全力で、彼らを足止めしてください」
「へ? いいのかよ」
先ほどの指摘を自ら否定するリイラの発言に、聞き返すジャルの声は思わず大きくなる。その不快感に耳を塞いで、リイラは顔をしかめた。
「はい、ですが。少しだけ待ってください。幻術の規模を拡大します。施設の周囲一帯を、私の術中においてから、です」
「わかった」
ジャルがうなずくのを待って、リイラは深く息を吸う。瞳を閉じ、視界を遮断する。五感に注いでいた神経すべてを、術式へと集中させる。
リイラの足下に彼女を中心とした円形の陣が現れる。ぼんやりと光るそれには彼女の脳で導き出される幻術の構築式を表しており、その円は幾重にも広がり、複雑な文様を成してゆく。
「……展開!」
リイラがそう言い放つとともに、術式の陣からまばゆい光が放たれる。その光は瞬く間に広がり、周囲のすべてを包み込んでゆく。
そうして一帯を自らの術中に置き、リイラはジャルへと微笑む。
「さあ、今です!」
「おう!」
揚々と叫ぶと、ジャルは空へと放たれた鳥のように勢いよく駆ける。それと同時に、軍人たちの立つ大地に巨大な重力場を作り出す。
「な、なんだ!?」
「身体がッ?」
突然自らを襲った大きな力に、軍人たちは一斉に混乱しだす。通常の数倍の引力が、その身体を押さえつけているのだ。日頃から鍛練を積んでいるであろう軍人であっても、その力には耐えられない。彼らの多くは引力に負け、大地へと押しつけられてゆく。
しかし、彼らも戦場を生きるもの。不意打ちの一手でそのすべてを刈り取れるほど甘くはない。彼らのうちの何人かは、ジャルの生み出した重力に耐えていた。
「……何者だ! 貴様、軍への反逆行為は重罪であるぞ!」
銃を放て!
先ほど彼らを仕切っていた男の指示で、立っている軍人たちは一斉に発砲を開始する。
放たれた数発の弾丸は、軍人たちの前に現れたジャルへと一気に注ぐ。されど、この場の重力法則を支配したジャルにとって降り注ぐ鉛の雨は脅威ではない。ここはすでに、彼の独壇場。弾丸は彼へと届く前に、そのベクトルを大地へと変えられ、本物の雨の如くぽとりと地に落ちてゆく。
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