暁の鐘なりて12
地鳴りのような轟音と、大地の呻きを彷彿とさせる大きな振動。直後に鳴り響く甲高いベルの音。立て続けに起こる異常は事態の急変を意味しているのだろう。
施設の外で仲間の帰りを待っていたリイラとジャルもその表情に緊張の色を織り交ぜていた。
「……中で、何かあったのでしょうか」
強ばった面持ちのまま、リイラは静かに口を開いた。
ディルたちが施設に入ってから外の様子に大きな変化はない。警備のための軍人が一度だけ交代で入れ替わっただけで、こちらの様子には気づく気配すら感じられなかった。そのあとは緊張感のかけらもない軍による形だけの警備が続いていただけだった。
「そうだな……。この音、爆発か? 外の奴らには聞こえてねえよな」
「その心配はありません。私の幻術で、何もなかったことにしてますから。けど、あまりに大きな変化だと……力の消耗が激しくなるので」
リイラの表情を強ばらせているのは、異常によって生まれた緊張感だけではないようだ。常に能力を使っている負荷が身体に出はじめたのだろう。
「大丈夫か?」
「はい、まだ。なんとか」
いいながら、リイラの顔色は思わしくない。彼女の幻術が切れてしまえば、警備の軍人に潜入が感づかれてしまう。それだけはなんとか阻止しなければならない。
なにかしら、彼女の力になれないものかとジャルは思考を巡らすものの、彼にできることと言えば励ましの言葉をかけてやるくらいだ。
「わりぃな……俺、何もできなくて」
「大丈夫、です。ジャルは引き続き外の様子を警戒していてください。私が集中できるようにしてくだされば、それだけで助かりますから」
「おう……」
うなずいて、ジャルは周囲に意識を向ける。
中の様子は伺い知れない。リイラの手助けもできない。自分にできることがあまりにもなさすぎて、不甲斐無さに舌打ちが出る。
「あー、くそ……」
それだけでは足らず、つい漏れ出た言葉が再び起きた振動にかき消されてゆく。
中に入っていった奴らが心配だ。警報音が鳴っているということは、施設内で何らかの異常があったことはすでに軍へと伝わっているはずだ。
目の前で時間を持て余していた兵士たちのもとへも通達が来たのだろう。ネジを回されたかのように彼らは動きだす。伝え来た情報と、目の前の光景が織りなす違和感が、彼らの間にさざめくように伝播してゆくのが見えた。
彼らの中で一番の年輩であろう中年の男が、先陣を切ってざわめきを鎮める。何かしら指示を伝えているのだろうが、ここからでは聞こえない。
唯一わかることが、事態はますます切迫しているということだ。時期に彼らは状況を確かめにここに来る。時間がない。
どうするべきか……。ジャルが咄嗟に浮かんだ判断を行動に移そうとした時だった。
「駄目です」
リイラが彼の腕をつかみ、それを阻止する。
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