暁の鐘なりて7
いろんなものを見てきた。
家族、友達、恋人、仲間。個と個の関係を形容する言葉にもたくさん出会った。
それでも、自分にとってそれは、だだの言葉でしかなかった。
誰が何を言っても。自分にその単を当てはめられても。勝手な戯れ言だと、切り捨てた。それで良かった。そんなものは、必要ないのだから。
ーーなのに。
自身に触れる体温は、少しずつ失われていくようだ。
弱々しい呼吸が、かろうじてその命をつなぎ止めている。
ーーもし、このぬくもりが完全に消え去ってしまったら。
そんなこと、どうでも良い。
誰が死んだって、関係のないことだ。勝手なお節介で、勝手に死ぬだけ。自分には何の害もない。何も揺らがない。
そのはずなのに。
形容できない何かが、胸の真ん中を支配している。
息がしづらくなる。苦しくなる。
わけが分からない。
「……馬鹿げているな、俺も」
誰にも聞こえない、小さな声でディルはそう呟いた。
今まで感じたことのない、新たな感情が彼を突き動かす。
それは、今を生きる人々にとってはごく自然な、しかし彼にとっては今まで感じ得なかったもの。
ーー早く、安全なところへ。正確な治療を施さなければ、こいつは死ぬだろう。
ゆっくりと、ディーナを地面に横たえる。
短く切りそろえられた絹糸を思わせる美しい銀色の髪がわずかな光を受けて輝く。
綺麗だ、そう感じた。
ーーなくしてしまうのは、嫌だ。
「……ディル?」
ニナが首を傾げる。ディルの様子を不思議に思ったのだろう。
潰えようとする命の灯火、そんなものを気にかけるなど。彼らしくない。あり得ない行動であると、そうニナは認識していたからだ。
驚くほど、意識が冴えていくのをディルは感じた。
鼓動が高鳴る。だけどそれは、今までのような衝動的なものではない。静かに、ゆっくりと、胸の内からわき上がるような熱量が心音を速める。
鼓動のリズムと連なってすこしずつ身体は熱を帯びてゆく。心は平静を保ったまま、静かに闘気が燃える。
ニナの表情から、笑みが消えた。
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