暁の鐘なりて6
◆
「……何……でっ」
激しい閃光の熱、それよりもあたたかな温度が多い被さるようにして自らを包みこんんでいた。
ディーナは自分の身体を盾にして、身を挺して爆発からディルを庇ったのだ。
一体何が起こったのか、自分を抱きしめる少女が何を思ってこのような事をしたのか。理解できずに、声が震えた。
背に伝わる地面の無機質な感触が、触れた肌の温もりと、弱りゆく息づかいを鮮明にさせた。
「あたり……まえでしょう」
ディーナは微笑んだ。
弱々しく息を吐きながら、しかしはっきりとした口調で。焼けただれた背がまるで何ともないかのように。強く、微笑んだ。
「大切な、仲間なんだから」
「……っ」
ずきり、胸の奥が痛んだーーような気がした。
「俺は、助けなんか望んじゃいない。馬鹿じゃないのか……こんな、無意味な事」
「無意味じゃ、ないよ」
ぽたり、赤い滴が落ちた。
ディーナの口元から流れ落ちた血液が、ディルの頬を濡らす。
「私が、そうしたかったの。貴方を、守れ……た」
深く、どこまでも澄んだ水面のような蒼が、ディルの翡翠を見つめる。それはまるで、やわらかにたゆたう大海。すべてを包み込む、優しい眼差しだった。
「ディーナ……!」
無意識に、ディルは彼女の名を呼んでいた。優しく強い蒼色は力をなくし、ゆっくりと閉ざされていく。
「おい……!しっかりしろ! ……くそっ」
ディーナはディルに多い被さった体勢のまま、その意識を手放した。ぐったりとした彼女は、呼び声にも応えない。
ーーどうしてこんな事を。
本当に、理解できない。
自分を犠牲にしてまで、他人を守る事に何の意味がある。
「あははははッ」
ニナの乾いた笑い声が響いた。
「馬鹿ね。本当に馬鹿ね。どうせみんな死んじゃうのに、ニナが壊すのに。本当、笑っちゃうわ。ねえ、ディル」
にたり、歪な笑顔が問いかける。
「……本当だ。本当に、馬鹿げている」
こんな細い腕のどこにそんな力があったのだろう。自分を守ろうと抱き留めるディーナの腕は、意識を失ってなおしっかりとディルを離さない。
ーーこんなことに、何の意味があるのか。
世界は、自分一人で完結するものだ。己という存在があって、それ以外の存在は不要なもの。自身に仇なす障害でしかない。
だから、そんなものは要らないと。要らないことが普通であると、思っていた。
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