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暁の鐘なりて5

「ころしてやる!」


 唸るような声で、ニナが叫んだ。

 先ほどまでの、少女のあどけなさは、どこか遊んでいるような余裕はどこにもなかった。
 『殺す。』明確なその意志だけが、今彼女を突き動かしていた。


 ーー閃光が、爆ぜる。


 想像を絶する猛撃が、ディーナとディルへと降り注いだ。
 常闇の空間が、昼間のように輝いた。熱風が大気を焼き、大地が唸るほどの衝撃が轟く。老朽化の進んだ施設には一溜まりもないだろう。建物全体はびりびりと振るえ、天井のおびただしいパイプ管や、塗装の剥がれた壁ががらがらと崩れ落ちる。
 

 なんて威力!

 本気でこちらを跡形もなく消し去るつもりなのだろう。
 ニナの攻撃は今までの比ではない。ディーナは光、ディルは風とそれぞれが咄嗟に防壁を作りだし直撃は免れたものの、熱線は皮膚を容赦なく焼き、烈風により舞い上がった様々な破片が身体を切り裂く。衝撃を緩和しているにも関わらず攻撃の威力は絶大だ。

「……っ」

 ディルが苦しそうに呻く。
 応急的に治療を施したとはいえ蓄積されたダメージは深く、完全に癒えていない。こんな状態ではまともに戦うのは難しいだろう。
 
「ディル」

「大丈夫だ。いちいち構うな」

 心配そうな声を一瞥もせずに振り払って、ディルはこの状況を打破する活路を見いだそうとする。
 排除しようとした痛みはぬぐい去れず、今なお全身を支配していた。ずしり、何かがのしかかるかのように体は重く。脈打つ痛みが思考を阻害する。

 ーーこんなもので、止められてたまるか。

 立ち上がる脚に力を込める。
 
 ーー壊す。絶対に、壊してやる。


「ディル!」

 ディーナが声を上げる。それとほぼ同時に、ディルの足下が崩れ落ちる。ニナの起こした爆発によって、床が砕かれたのだ。
 足下の支えを失って、ディルの身体が崩れる。

 ニナの表情がぐにゃりと歪んだ。

 一瞬の隙を彼女は捉えた。
 再び、大気が震え、光がほとばしる。

 ドンッ

 轟音が猛り、多大な熱がディルを呑み込む。

 今度こそ、彼のすべてを焼き尽くすように。業火の腕がディルへと伸ばされる。閃光の瞬く刹那の時。しかし、彼を抱き留めたのは爆炎ではなく、ディーナの腕だった。



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