[携帯モード] [URL送信]
暁の鐘なりて4
 
「お前、本当に何? お前から受けた傷が再生しないんだ。痛くて、痛くて、頭がおかしくなりそう」

 現れたニナは片腕を失っていた。真白で細い少女の指先はいまや見る影もない。ぶらりと力なく垂れ下がった少女の右腕。その肘から下は完全に断絶され、粗い断面からはむき出しの骨と肉がのぞく。そこから絶えず流れ落ちる血が今もまた地面をぬらした。

 コアによる恩恵、無限の再生力。それを持つニナが、失った腕を癒すことが出来ていない。それは想定外のことだった。
 コアを失えば再生機能も失われる。しかしその可能性はすぐに否定された。ディルは今も彼女から、コアの発する気配を感じ続けている。彼女はコアを失ったわけではない。
 
 では、これは何だ?

 目の前の事態は、完全に未知の領域だった。謎の多い有核生命、分かっている特徴のひとつがその再生能力である。すべての有核生命はコアがあり続ける限り、再生を繰り返す。
 現に先ほどまでどんなに攻撃を与えても、彼女の前では無意味だったのだ。それが何故、彼らの定義を否定する事象が起こっているのか。

 それがいったい何を意味するのか。この場にいる全員がそれを知り得なかった。

「許さない……ニナはお前を許さないぞ……」


 憎悪。低く呻くようなニナの声から伝わる感情は、身の毛のよだつほどどす黒く濁ったものだった。
 彼女が放つ殺気は、この場の空気すべてを侵すほど。呼吸をするたび、気管を、肺を蝕んでいくような、そんな錯覚すら思わせる。

 手負いの状態に追い込まれてなお、彼女の脅威は失われることなく
、むしろ増していくようだ。
 少しでも気を抜けば一瞬で消し炭にされてしまう。ディーナは神経を尖らせ、ニナを注視する。

 銃を握る手のひらに、嫌な汗がにじむ。
 頭のてっぺんからつま先を一本の鉄で矯正されたようだ。身体が思うように動かない。
 限界まで伸ばされた弦がきりきりと鳴くように、極限まで空気が張りつめていく。

 ぎりぎりの状態で保たれていた均衡。
 ぷつん、弦が切れる瞬間はそう時を待たずして訪れた。


[*前へ][次へ#]

36/52ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!