暁の鐘なりて3
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吐き出された言葉は、ディーナの感情そのものだった。
今まで考えたことがなかった。いつも側にいる彼女がどのような思いを自分へと抱いていたのかなど。そんなことはどうでも良いことで、自身にとって関係のない、不必要なものであると、そう思っていた。そんなディーナの感情を目の当たりにして、しかしその感情をディルはうまく理解できない。
その言葉に応えるすべが判らない彼はただ、揺らぐディーナの瞳の色を見つめた。深い海のような輝きは、自分をまっすぐと見つめていた。
芽生える感覚。胸の奥を締め付ける奇妙な息苦しさ。ニナの瞳を見つめた際も、同じような感覚を覚えたことを思い出す。
無機質な瞳が与えたのはじりじりと焼き付くような、今にもはじけそうな衝動だった。しかし、今目の前の少女の瞳。優しいゆらめきが与える苦しさは、不思議なことにどこかあたたかく、張りつめていた感情を解きほぐすようだった。
同じ様に見つめ合った瞳、それなのに。
この差異はいったい何なのか。
「ーー!」
胸の内にわき上がる何かを判別する時間を、どうやら彼女は与えてくれないようだ。
突如として、ディルの背筋に電撃が走る。それはニナの放つ気配がもたらしたものだった。弾かれたように首をあげると、警戒して辺りを見回す。ただならぬその様子に、ディーナもまた周囲への注意を向ける。
「もう追いつかれたの……」
氷雪のごとく緊張感は、高ぶった感情を一気に冷やす。感傷に浸る暇などもはや存在していなかった。
ひたひたと、這いずるような悪寒がすぐそこまで近づいてきている。
ディーナの攻撃は十分な足止めとはなったが、相手はコアを持つ存在。倒すことは用意ではない。
ーー来た。
今度こそ、奴を倒す。びりびりと、刺すような空気がディルから伝わる。それはむき出しの刃のような殺気。直接それを向けられている訳ではないディーナですら喉元に刃を突きつけられたような息苦しさを覚える。
ディルは意識を集中させ、コアの気配を追う。
「みぃーつけた」
無邪気な声が辺りに響く。
ぺたり、冷たい足音がゆっくりと近づいて、その輪郭が露わになっていく。ぽたぽたと、何かが滴り落ちるような水音。緑色の非常灯が反射して、床に落ちた血液がぬらぬらと生々しく照らし出される。暗がりの中のわずかな光源に彩られ、不気味さを伴い現れた少女の姿に二人は目を見開いた。
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