暁の鐘なりて1
◆
「よかった。気がついた?」
意識が覚醒する。
ゆっくりと開かれたディルの視界に、ディーナの顔が映った。
「……ここは?」
「研究所の中だよ。とりあえずは、安全な場所かな」
ニナの下から逃げおおせた二人は、研究施設の一角に身を潜めていた。
先ほどの戦いの余波で施設の崩壊は進んでいた。電気の配線が数本断裂したのだろう、辺りの電気は薄暗く足下の非常灯だけが微かな明かりとなっていた。それも頼りないもので、不規則な点滅を繰り返しながら淡い緑色が今にも消え入りそうな光を放っている。
ディルが意識を取り戻したことに安堵したのだろう、ディーナは肩の力が抜けたようだった。それでも、緊迫した状況には変わりはない。未だ力が込められたその手にはしっかりと拳銃が握られていた。
「……っ」
次第に身体の感覚が戻ってきたようだ。鈍い痛みがディルを襲う。
曖昧な記憶を整理して、今自分が置かれている状況を理解しようとする。脳裏に浮かぶのは少女の歪な笑顔。もう少しで、壊せるはずだったのにーー。
「まだ動かないで。だいぶ治癒はしたけど、ひどい怪我だったんだから」
「大丈夫だ……」
ディーナの制止を振り切って、ゆっくりと身体を起こす。その動きに伴って鐘が鳴るような重厚な痛みが頭に走る。肉体の回復も完全ではないようで、断続的な苦痛と倦怠感に襲われる。
しかし、これらの症状は行動に支障を来さない。そう判断したディルは、痛みから無理矢理意識を背ける。
手のひらを強く握りしめては開く、それを何度か繰り返す。問題ない、身体は異常なく動く。
静寂の中に響く呼び声のような気配。
ニナの、正確にはニナの持つコアの気配は未だ近くに在る。
彼女はまだ壊れていない。
ならば、自分の為すことはただ一つ。
今度こそ、ニナを完全に破壊する。
静寂を乱す、あの目障りな気配を消し去るために。身を震わす、歓喜にも似た衝動を抑えるために。
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