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黎明のこえ14


「ディル……!」

 放たれた弾丸の出所。硝煙を昇らせた銃口をそのままに、ディーナはディルの姿に目を見開いた。
 打ち抜いた標的には目もくれず、真っ先に倒れ込むディルの元へ走る。

 非道い傷だ。すぐに癒しの光を放つ。

「大丈夫!? しっかりして」

「……ディ……ナ」

 わずかに唇を震わせて、吐息のような音が漏れた。反応があることにひとまず安堵する。

「一体何が……」

 言い掛けた言葉を、ぞくりと悪寒が遮った。背筋の凍るような、これは、殺意だ。

「お前……何?」

 怨嗟の声に目線を向けると、ゆらりと揺らぐ影。打ち抜いたはずの少女だった。

「嘘、確かに頭部を打ち抜いたはず」

 少女はゆっくりと立ち上がる。ふらふらとしていた身体は次第に元の安定を取り戻し、焦点の合わなかった瞳もやがてはっきりとした意志を宿す。
 ぎょろりと瞳がこちらをとらえる。大きな瞳の、その内側の深淵が、底の見えない恐怖を与える。警鐘。本能が全身の細胞に訴える。

 彼女は危険だ。

「……お前、なんなの? お前の攻撃は痛い。気持ち悪い。何なの? 何? いま、ニナはディルと遊んでいたんだから。邪魔をするなよ」

 来る。まとわりつくような嫌な予感が、身震いする。ディルを抱え、反射的に地を蹴ると、先ほどまでディーナたちが居た場所が爆音とともに大きく抉れた。熱い風が頬をかすめる。その攻撃に容赦などはない。跡形もなくこちらを消し去る気だ。

 攻撃を回避しても、再びその場所が狙われる。防戦一方、完全にあちらのペースだ。抜け出せない砂地獄にとらわれたかのようだった。
 一度体勢を立て直さなくては。このままでは埒があかない。自分の体力が尽きて、袋叩きにされるのを待つだけだ。深手を負ったディルの治療も充分ではない。隙をついて、待避するのが得策だろう。

 止まぬ爆撃の中。落ち着いて、周りを見渡す。
 戦いのさなか落下したのか、天井にあったであろう大きな照明が無惨な姿で横たわっている。
 暗がりで視認しづらいが、天井を見たところ同じような大型の照明が二三ぶら下がっているようで。老朽化と戦いの余波でいまにも崩れ落ちそうな状態であった。錆び付いた一本のパイプとむき出しになった配線が、かろうじて天井につなぎ止めている。

 ディーナはそこに向かって光の弾丸を撃ち込んだ。視界は暗く、標的は遠い。正確にねらえる保証はなかったが、この状況を脱するための賭と思えば、装填された弾丸を使い切ることに躊躇いはない。

「ねえ! 何処を狙ってるの? ニナはここだよ? もしかしてもう諦めちゃったの?」

 ぐらり、天井が大きく揺らいだ。
 来い! ディーナは息を呑む。
 弾丸は確かに標的を貫いたのだ。ゆっくりと、大きな音を伴って照明は真っ逆様に少女の頭上へと。

「!」

 降り注いだ照明にニナの意識が向く。その一瞬だ。それだけあれば充分だ。ディーナは光の力を集めて、一発の銃弾を生成する。
 通常であれば、光の弾丸は銃に込められた普通の鉛玉を核に、光のエネルギーを集めて放たれている。ディーナの意のままである光の力が込められている分、威力、速さ、精度は通常の断簡よりも格段に増し、発砲の際に身体にかかる負荷も小さくなる。
 光の力を込めるほど、それに比例して銃撃の力は強く、正確になっていく。そして、今放たれようとしている弾丸は純正の光の弾丸、まっすぐに、標的を貫く。一切の曇りもないまばゆい閃き。

「はあああああ!」

 ディーナの力を込めた弾丸は、まばゆさとともに少女の身体を貫く。瞬きの刹那、あまりにも短い一瞬に打ち抜かれ、ニナの身体は動きを止める。

 ――今のうちに……!
 
 照明の落下によって、衝撃の波とともに砂塵が巻き起こる。視界を覆うほどのそれに紛れるように、ディーナはディルを連れて部屋の外へと飛び出した。




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