はじまりの来訪15
「あんなの造って、何になるんだろう……?あれ一体だけとも限らないし、やっぱり村長さんの話を聞いてみないことには分からないか」
不可解な点は多いが、現状では情報が少なすぎる。やはり依頼主である村長に話を聞いてみるべきだろう。
ディルは「そうだな」と同意の言葉だけを返す。
「このかけらは本部に持ち帰りましょう。レオさんなら何か分かるかもしれない」
そう言うとディーナは拾ったかけらを鞄へとしまいこむ。たとえ小さなかけらだとしてもどんな効力をもつのかもわからない、なるべく慎重に扱わなければならないだろう。念のために布で何重にもくるんでおく。
「さてと、村への案内はベルト君がしてくれるとしても……」
言って、ディーナは空を見上げる。天井高くまで生い茂る木々の隙間から、青白い半分だけの月が目に入った。月とその周りに負けじと輝く星ぼし以外、あたりを照らすものはなかった。
「……こんな時間じゃ、村の人たちは起きてないかもしれないわよね」
正確な時刻は分からないが、この森の中でかなりの時間が経った。すっかり真上に昇った月を見ても夜が深いことは明白である。
「……」
困った。と眉根をよせるディーナに沈黙だけ返し、ディルは小さく溜息を吐いた。
当初の予定なら、まだ日があるうちに村へ着いて村長に会っていたはずだった。そして村長が村への滞在期間のために手配してくれた宿に泊まるつもりでいたのだ。しかし、こんな夜更けに村長に会いに行けるはずもない。当然宿もない。
宿がないのならこの森で一夜を過ごすしかない。
過酷な現状を目の当たりにしてディーナは「今夜は野宿かぁ……」と肩を落とす。
「なら、俺の家に来ますか?」
そんな様子を遠くから見ていたベルトが口を開いた。
「え、いいの!?」
差し出された救いの手に、思わず眼の色を変えてディーナは飛びつく。
だが、すぐに我に返り冷静さを取り戻し申し訳なさそうに言う。
「…でも、悪いよ。ベルト君は一般人だし、ここまで巻き込むのは……」
「大丈夫ですよ。村を案内する約束もしたし、今日はもう遅いから行くとしたら明日でしょ?明日また会うより、一緒にいたほうがよいと思うんです。それに、ほら。俺を家まで送り届けてくれるんでしょう?家まで来てくれるんだったらそのまま泊めるのだって一緒です」
そう言って、ベルトはにこりと笑みを浮かべる。
わざわざ家に送ってもらうのに野宿させるというのも申し訳ない。それに、結果的に彼女たちはベルトの命を救ってくれた恩人である。自分に出来ることならばできるだけ協力したい。それがベルトの本心だった。
ディーナは感謝と遠慮が混じったぎこちない表情をつくりながらも、ベルトに偽りのない善意を感じ「ありがとう」と素直に感謝をのべた。
対象的にディルはあまり乗り気ではないようで、不満げな目で二人の会話を見ていたが、特に反論を口にする様子はない。しぶしぶながらも納得はしているようだ。
そんな彼の様子にほっと胸をなでおろしつつ、ベルトはくるりと身体を目的の方向へと向ける。
「それじゃあ、行きましょうか。俺の家はこっちです」
先導して歩き出すベルトについていく形で、二人は月明かりにうっすらと浮かびあがる森の道を進みはじめた。
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