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黎明のこえ6

「何が書いてあるのかぜんぜん分からないわ……」

 目に飛び込んできたのは耳にしたこともないような専門用語の羅列。加えて蛇が地面をのたうち回ったかのような解読不能、謎の文字列。網膜が映像を映した時点で、脳がその情報処理を拒んでしまった。完全にお手上げだ。

「そもそも、この膨大な資料の中から目的の物を探し出すのってなかなか大変よね……」

 見上げた雑誌棚は天井すれすれまで続いている。これらすべてに目を通すだけでも途方のない話のように思えてくる。
 
 どうするべきか。
 コアをもつ生命体という、本来は在るべき物ではない存在に関する実験。それを実際に行っていたならばもちろん公にはできないことのはずだ。その有用な情報は軍内部でも、特に一部の人間しか知らない機密となっているだろう。そう考えると……。

「重要機密なら、もっと奥に隠してあるかもしれない」

 ディーナは本棚の隙間を縫うようにして部屋の奥へと足を進める。それにつれ非常蛍光の明かりが次第に薄れ、残ったわずかな光も不規則な点滅を繰り返すだけ。この先の未知への緊張と好奇心、希望への期待、それらに挟まれる心を不安定に揺さぶるようだ。
 人の立ち入りがないようにあえて電球をなくしたのか、人の通りがないからこそ電気の必要がないのか。そのどちらかは定かではないが、薄暗く、ひときわ埃のたまった部屋の奥は、長い間人の存在を遠ざけているように感じられた。そしてそんな所に、古びた扉がひとつ、息を潜めていた。
 陰鬱な空気をはらんだ資料室の奥に隠れるようにひっそりとたたずむ鉄の扉。ご丁寧にも、そのドアノブには重厚な鎖が巻き付けられ、大きな南京錠でしっかりと封をされていた。この先の秘密から人を遠ざけていることは明白だ。

「……」

 静かな空間に吐息だけが響く。
 開錠のための鍵は手にしていないが、すっかり錆び付いたその鎖は衝撃を与えれば簡単に壊れてしまいそうだ。
 ディーナは太股に固定していたホルダーから、愛用の銃を取り出した。
鉄の冷たい質感にもずいぶんと慣れそれを扱うこのへの抵抗も、もはやほとんどなくなってしまった。
 銃口を鎖の一番弱っていそうな部分へと向ける。しっかりとねらいを定め、一発。

 パアン、という乾いた破裂音のあとに、じゃらりと鎖が落ちる音。うまくいった。鎖ごと錠が外れて秘密の部屋の扉が露わになる。

「よ、し」


 ディーナはしばらく古びたドアノブを見つめ、その先に進む決心を固める。ドアノブ自体の鍵はかかっていなかったらしく、先ほどの衝撃で半開きになった扉の隙間から、どろりとした暗闇が覗いている。その暗闇はまるで底なし沼のようで、その先へ進む足を引き留めるには十分だった。しかし、弱音は言っていられない。先に進まなくては、何一つ得ることはできないのだから。

 真っ暗闇に足を踏み入れる。資料室の明かりがわずかに届くものの、それは扉から離れるにつれ闇に飲み込まれてしまい、ほとんど意味をなさなかった。これでは調べるどころか、先に進む足取りすら怪しい。

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あきゅろす。
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