黎明のこえ5
◆
小さな非常時用の照明はかろうじてまだ作動するようで、大きなレバーを下げると空間に薄暗い光が灯された。
暗闇に馴れた視界が一気に白け、そして今度はその光に順応していく。
扉の先に広がっていた空間は、実験施設のようだった。
わずかに残る薬品のにおい。何に使われていたのかよくわからない大型の機械が並び、床や壁中に延びたパイプや電気配線がそれらを繋いでいる。
機械の並ぶエリアからさらに進むと、今度は大きな試験管のようなものが並んでいた。厚いガラス張りの容器は半透明の培養液で満たされており、その中には何本もの細かい管によってつながれた実験動物が、その命の鼓動を止めて静かに揺れていた。
ずらりと並んだ試験管のそのほとんどの中で、大きさや種族に違いはあるものの、同様に実験動物の無惨な末路が沈んでいたのであった。
「……これは」
目の前の光景にディーナは息をのむ。
「動物を使った生体実験か。一体何の目的でおこなわれていたのだろう」
その一方で、ダズは落ち着いた様子だ。指で眼鏡を持ち上げては、興味深そうに試験管を見つめている。
「実験を打ち捨てて、そのままの状態で残っているみたいだね。まだ情報が在るかも知れない。手分けしてこのあたりを調べてみよう」
「わかったわ」
ダズの提案にうなずいて、ディーナは辺りを注意深く探索し始める。
姿形はまるで生きているものと変わらない。規則正しく並んだ試験管の中の動物たちはただ眠っているだけのように見えた。触れればまだ温もりを感じられそうな、しかし、手を伸ばして感じられたのはガラスの冷たさだけだ。
彼らを可哀想だと感じるのは、きっととても身勝手な感情なのだろう。その現実を直接目にした時だけ都合よく哀れみ、憤りを覚えることはただの偽善であり自己満足だ。
それでも、そう分かっていても。やりきれない気持ちになる。余計な感情は調査の邪魔になってしまう。ここの場所はダズに任せて、自分は別のところを調べた方が良さそうだ。
ディーナは目に付いた正面のドアノブに手をかける。鍵はかかっていないらしく、簡単に開くことができた。
壁で区切られてはいるものの、天井は研究室と繋がっているため部屋の様子を確認する光源には困らなかった。
どうやらここは資料室のようだ。所狭しと並んだ鉄製の雑誌棚に、びっしりと本やら書類やらが乱雑に詰め込まれている。研究ジャンルや目的ごとに仕切られていて、雑多な印象の割に資料の検索に困ることはなさそうだ。
探しやすくなっているとはいえ、並んでいるのは専門用語。必要な情報がどのジャンルに分類されるものなのかもよく分からない。ディーナはとりあえず手元の資料を一部、棚から取り出した。何か重要なことが書かれていないかと目を向け、すぐに棚へと戻した。
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