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長い夢のエピローグ17


「ふざけてなどいないさ。本当のことだ。むしろ、それはこちらの台詞だ。貴様の方こそ、彼女をどうするつもりなのか……。本来ならば彼女は貴様にとって守るべき存在ではないはずだ。その逆といってもよいだろう。なのに何故、彼女に固執する?」

「お前には関係のないことだ」

 ああそうか、男の口元が歪む。

「償いのつもりか。彼女は貴様が生んだ罪そのものだからな……」

 (一体どういうこと?)

 レオへと放たれた男の言葉、しかしそれは耳元でささやくようにリサの心を揺らす。
 その真意はわからない。この男は何を知っているのだろう。レオは、何を知っているのだろう。知っていたのならば、どうしてなにも教えてくれなかったのか。
 意味が、意図がわからずとも。それはリサの心を揺らし、そして混乱をもたらすには十分だった。

 男の言葉は続く。

「自分が彼女を守ることが彼女の救いになる、そう思いたいのであろう。だがそれはただのエゴだ。自己満足だ。貴様の側に居ることが、彼女にとっての幸せになるとでも……? なんて愚かなことだ。笑いがこみ上げてくるようだ」

 喜劇の舞台上で紡がれる台詞のように。愉快で滑稽。そして狡猾に、男はあざ笑う。それを聴く観客までも、自らの織りなす演目に巻き込み弄ぶかのように。

「それ以上は黙ってもらおうか」

 静かに、レオは男を威圧する。
 帽子の中、暗闇に隠された彼の金色の瞳がぎらりと赤色を見据えた。

 それはこの空間すべてを飲み込むほどの圧力。地に引き込まれるような重力と、握りつぶされるような息苦しさが全身を支配する。
 直接その矛先を向けられてはいないメルベルでさえ、ぞくりと全身が逆立つような危機感を覚える。

「レオ……」

 小さく、主の名を呼ぶ。

「……ふう。流石に、今ここで戦い刃を交えるのは得策ではないな」

 男は重く息を吐く。いくら使える力が限られているとはいえ、目の前の人間は特別な存在。普通の相手とは訳が違う。殺し合ったとて勝率はそう高くはない。ましてやここは敵の本陣。ここは大人しく、当初の予定通りの目的を果たすことが最善だろう。そう判断して、男は素早く相手と距離をとる。

「リサ!」

 男の行動からその思惑を察して、レオは叫び、開いた距離を詰めるよう走る。

「−−さあ。思わぬ邪魔が入ってしまいましたが、行きましょうか」

 腕の中の少女に、男はやさしく微笑みかける。

 少女は迷う。今この腕を振り払えば、まだ間に合う。まだ戻れる。その一方で、一つの疑念。戻ったところで、どうなるというのだ?

 答えは出ない。次第に周囲の景色が白み、かすんでいく。
 遠ざかっていく景色に、ゆらりと浮かぶ影。
 それはまっすぐにこちらを見ていて、その手をこちらに伸ばしていた。帽子が飛び、糸のような金色が揺れる。やさしい、それでいて強く、尊い。その瞳が、とても好きだったことを、何故か急に思い出した。

「――リサっ」

 鮮明に聞こえた。私を呼ぶ、なつかしい声。大切な人の声。
 
 弾かれたように意識が覚醒する。ぼやけた視界が一瞬だけ晴れて、その姿をあらわにする。
 
「――レオ!」

 リサは手を伸ばし、その名を叫ぶ。
 


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