長い夢のエピローグ13
取り繕った笑顔が剥がれていく。
ばかばかばか。
なにもわかっていない。
わかってくれない。
部屋を出てリサは一人になる。張っていた気が緩んで瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちてくる。
違う、わかってなかったのは自分の方だ。結局、抱いていた希望は幻想だったのだ。あたしは、皆の力になんてなれない。足手まとい。邪魔者なのだ。
突きつけられた現実は刃となってリサに突き刺さる。痛みの代わりに頬を伝う滴はしばらく止まりそうもない。
――あたしは、ここにいない方がいいのかな。
心中を支配する、その疑問に答えてくれる声はない。
自分に出来ることがないのなら、足を引っ張ってしまうだけなら、いっそそうした方が皆のためになるのかもしれない。
思考回路は螺旋状に落下していく。
駄目だ。こんなの、あたしらしくない。こんな風に落ち込んで、泣いているなんて、そんなのあたしじゃない。
そうは思っても、今はまだ、いつもの自分を取り繕えない。
気が付くと、リサは城の外にいた。
しばらく一人になりたかったし、仲間の誰かにこんな顔を見られたくなかった。一人で城の外にでるのは初めてだったが、そんなことは構わなかった。
城の外はやけに静かだ。
生い茂ったたくさんの大木が、まるで城を隠しているように重なり合っていた。その葉は空を覆い、太陽の光をほとんど遮ってしまっている。
薄暗い空間は彼女の姿さえ隠してくれるが、同時に心細さを駆り立てる。しかしそれよりも今は誰にも見つからないこの場所に隠れていたかった。
涙がおさまるまで、と適当な木の影にうずくまる。湿った地面の感覚。自分だけの体温。こうしていると、昔のことを思い出す。
あのころも一人で、こうして隠れるようにして膝に顔を埋めていたのだ。
今はもう、そんなことはないと思っていたのに。
あのころからあたしは、何一つ変わってなどいなかったのだ。
思い知った現実が身体に重くのしかかる。
「……ひぃ!」
ふと、どこからか声が聞こえた。ひどく怯えたような声。そこに込められた嫌悪の感情に、リサは恐怖を覚えた。身体が跳ね上がり、鼓膜をふるわせるほどに高まる心音。
見上げると、やはりそうだ。その感情はまっすぐにこちらに向けられていた。そこに居たのはひどくやつれた顔をした一人の壮年の男性。年の割には皺の刻まれたその顔をさらにしわくちゃにして、その細い目を精一杯に見開いて、嫌悪と恐怖と侮蔑と悲痛と、それらすべてがぐちゃぐちゃに入り交じったような醜悪な視線でこちらを見ていた。
「――」
どうして、こんなところに人が。
わずかに震えたリサの唇からは、戸惑う感情が吐息となって微かに漏れるだけ。声にはならない。
全神経が意識が、本能が警鐘を鳴らす。経験が伝える。
彼の放つ負の感情は、すべて自分に向けられている。
男の手には大きな鍬が握られていた。握りしめられた拳が震えていて、強く込められた力を物語る。
「禍罪……こ、殺さなくちゃ……」
まるで幻想にとらわれているかのようだった。うわごとのようにそう繰り返して、男はこちらへと歩み寄ってくる。焦点の合っていない瞳がぶるぶるとゆれる。狂気。そう、そこに見えたのは明確な狂気だ。
逃げなくては。殺されてしまう。
そう脳が必死に訴えているが、真の恐怖は身体の全てを支配してしまう。呪縛のように、腕は、足は、全く動いてくれない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!