はじまりの来訪14
「ディル」
猛獣の残骸の中、興味深げに周囲を見回していたディルにディーナは声をかける。
「何だ」
鈍い輝きを放つ翡翠の瞳が、ディーナをとらえる。
まだどこか近寄りがたい空気を纏ってはいるものの、そこには先刻放たれていた威圧感はなくなっていた。
「ベルト君が、ホドリ村まで案内してくれるみたいなの。私たち……というか私がだけど迷ってたからお願いしちゃった。いいよね」
躊躇いつつも先程の決定を告げる。勝手に決めてしまったことを彼は怒るだろうか。そんな不安を抱きながら。
ディルは少しばかり目を伏せながら、何か考えている様子である。
そして、
「……お前は、あの人間を信用するのか」
低い、落ち着いた声でそう問うたディル。彼の表情は暗がりで良く見えない。
「うん。大丈夫だよ。ベルト君はいい人だし、なんにも心配いらないと思う」
精一杯の笑顔で彼に応えるディーナ。
ディルは、他者に対して異常なほどの警戒を抱く。その理由は分からないが、ディーナは追及しようとはしない。彼女はそんな彼を支えたいと、そう思っている。それだけだった。
「……わかった」
小さくつぶやくと、ディルは立ち上がる。
「そういえば、さっきの猛獣。何か違和感はなかったか?」
「違和感?」
「ああ」
ディーナは猛獣との一戦を思い返す。違和感といえば心当たりがあった。
「再生……?」
「再生?」
ディーナの口から零れた単語をディルは反復する。
「うん。さっきのやつ、額を銃弾が貫通したはずなのに、平然としてた。もしかしたら弾が外れただけかもしれないけど。いや、でも銃痕はあったし……」
「傷の再生、か。これ、見ろよ」
思考をめぐらすディーナにディルは何か破片のようなものを差し出す。
「なに?これ」
「分からないが、肉片の間に散らばっていた。妙な力が加わってる」
一センチ程度の小さなかけらは、半透明の薄紫色をしており、木々の間から差し込む月の光を反射して、きらきらと光沢を放っている。そして、わずかではあるが何か強力な『力』がそのかけらから発せられていた。
「本当だ。猛獣が再生したのと関係があるのかな。でもまあ、容姿的にも自然界では存在し得ない感じだったから、何らかの形で人の手が加わっているのは確かね」
猛獣はいくつもの種類の生物を足して割ったような外見をしていた。虎のような、熊のような、はたまた霊長類のような、明らかに不自然な容姿であった。
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