長い夢のエピローグ8
「今回は君たち全員に調査任務にあたってもらう。それぞれの役割だけど、まずは潜入を万全の状態で行うための後方バックアップをリイラとジャルに行ってもらう。そして進入、情報収集を残りの三人にそれぞれお願いするよ」
「わかりました」
告げられた役割にそれぞれがうなずいた。そして事前調査したという施設の内部の地図がレオから手渡される。
「情報屋の腕が確かならその地図はだいたいあってるはずだよ。潜入経路や手順は君たちにお任せするから、自分たちがやりやすいようにやってくれていいよ」
「あの、レオさん」
大方の説明が終わったあたりで、控えめに口を開いたのはジャルだった。
「文句言う訳じゃないんすけど……潜入と言えば俺じゃないすか。俺、リイラと一緒に外にいていいんすか? いや、リイラと一緒なのが嫌とかそういうんじゃなくて……むしろそれは嬉しい方なんですけど……」
「お前は何が言いたいんだ?」
どこか納得がいかない様子のジャルに、ダズは顔をしかめる。
「まあ、ジャルの言いたいことも分かるよ。なんで自分が得意の潜入調査から外されたのか問いたいんだろ?」
「そうです。分かってんならなんで俺を後方支援にしたんですかレオさん」
「安全策だよ。相手に顔が割れてるジャルが最前線にでるのは危険だと考えたんだ。まあ、みんなを送り出す時点で全員の顔が知られてしまうというリスクはあるけど。素性がばれていない方が動きやすいしね」
「うー、やっぱりそういうことか……」
「大丈夫。ジャルにはちゃんと活躍してもらうから。リイラを守るナイトとしてね」
「ナイト!」
がっくりと肩を落としていたジャルだったが、ナイトの一言でその目をきらりと輝かせる。
単純きわまりないその様子に苦笑いしながら、リイラが補足する。
「幻術を発動するとき、それが大きな術だとどうしても術の方に集中しなくてはならないんです。今回の潜入にはわたしの幻術を利用するから、その間にもし襲撃が在った場合に私を守ってくださるのがジャル、ということですよね」
「そういうこと。さすが、リイラは理解が早いなあ」
「なるほどわかったぜ! それを聞いたら俄然やる気が出てきたってもんだ! リイラは俺がばっちり守ってやるからな!」
「はい。よろしくお願いしますね」
呆れるほどにやる気にあふれたジャルを、リイラはさらりと笑顔で受け流す。
「単純すぎるだろ……」
ぼそりと呟いたダズの一言は幸いジャルに届かなかったようで。一気に活力にあふれたジャルはこの任務が重要なものであることさえ忘れてしまっているのではという心配すら抱かせた。
「ほらー。気を引き締めていかないとうっかりミスで脳天からチェーンソーくらっちゃうよ?」
「さりげなくエグいっすよレオさん!」
すかさず突っ込みながらも、レオの発言からジャルは顔を青ざめる。想像力豊かな若者の浮かれていた気分を落ち着けるには十分すぎる効果を発揮したようである。
「あはは。でも、ほんとに気を引き締めないと危ないからね? 俺の言った通りにならない保証もないんだし。気をつけてね」
冗談めいているようだが、ジャルに向けられたレオの言葉はここにいる全員にも当てはまるのだ。これから対峙するものを考えると用心しすぎるくらいがちょうど良いのかもしれない。この場にいるほとんどの者はそう心を引き締めた。中にはそうでない者もいるようだったが。
任務に備えてしっかりと身体を休めるように。
レオのその言葉をもって、この場は解散となった。
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