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目を覚ました獣たち13

「どういうことだ……?」

「わからないの?」

無機質に淀んだ少女の瞳に一瞬の憂い。
網膜に映る柔らかな微笑み、その意図が分からずにただ吸い込まれる。
先程までの衝動が何処かへと消え去ってしまった。あんなにも破壊したかった少女を前にして、ディルの心は驚くほど落ち着いていた。

「だってディル、あなたは――」


「ちょっと待った!!」

空気を引き裂いて上空から声が降ってくる。
次の瞬間、まるで落下していくかのようにニナの身体が壁へと引き寄せられて行った。
そしてディルの目の前に降り立つのは、見覚えのある後ろ姿。

「お前……!」

予想外の出来事に理解が漸く追いついた所で、彼は声高に叫んだ。

「このジャル様が来たからにはもう安心していいぜ!」

びしっと謎のポーズを決め、振り向きざまに得意げに笑みを浮かべる。
緊迫した状況とはほど遠い、そんなジャルの様子にディルは脱力するのを感じた。

「遅えよ、アホ」

「うるせえ、いろいろあったんだよ。それに、ヒーローは遅れてやってくるもんだろ? それに、ダズも無事だぜ。寸でのところで助けてやった」

その言葉通り、後方からダズの声がする。

「不本意ながら。それに大事なマフラーは煤塗れだけどね」

間一髪で爆発の直撃は避けたらしい。煤けたマフラーを払いながらダズは息を吐く。

「てめーせっかく助けてやったんだから、感謝ぐらいしろよな」

「そうだね。危ない所だったのは確かだ。ありがとう」

「おお!めずらしく素直じゃねーか」

ダズの口から出た感謝の言葉にジャルは満足げだ。対して浮かれるな、とダズは冷静だ。

「安心するのはまだ早いよ。彼女はまだ倒れていない」

ジャルの力によって壁際に縫い付けられてはいるものの、それも時間の問題だ。びりびりと肌を刺すように膨れ上がる殺気がそれを物語っている。

「許さない。許さないぞ……」

唸るような声。小さな少女の外見からは象像できない程に、心の奥底から恐怖を呼び覚ますような、そんな声。

「あれ、あの時の女の子か? なんなんだよ?」

「ジャル、状況説明はあとだ。ディル、立てるかい?」

ダズがこちらに手を差し伸べる。痺れは残るが、薬の効果も薄れてきた。

「誰のせいだと思ってやがる」

その手を取らずに、ディルは立ち上がる。のしかかるような倦怠感が襲うが、行動に支障はなさそうだ。

「謝るよ」

ダズと目は合わせずに、少女の方を見る。

来る。

「邪魔をするなあああああああっ!」

爆発。
少女が縫い付けられていた壁が崩壊し、それとともに関を切ったように吹きあがる殺意。
壁から発せられる引力を断ち切るために、少女は爆風によって此方に向けて飛び上がったのだ。

「殺すっ」

大地全てを砕くかのように連続的に起こる爆発がディルたちを襲う。襲いくるのはそれだけでない。少女の殺意に応えるように、群れを成した猛獣たちが周りを包囲し始めていた。




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