[携帯モード] [URL送信]
目を覚ました獣たち10

舐めるような悪寒が走った。と、目の前から彼女の姿が消える。

「あははははははははははは!」

狂ったような笑い声を上げながら姿を消した少女が突如眼前に現れる。

「!!」

咄嗟にその彼女から離れたディルの、元立っていた地面が爆炎を上げる。

「すごいすごい!」

はしゃぐように声を弾ませる、ニナはまさに遊びに熱中する少女そのもの。そのなんの悪意も片鱗も見えない笑顔からは想像しがたい程の容赦ない爆撃の乱舞がディルを襲う。

息もつけぬ程の連撃すべてを寸前で回避し、その隙を縫って彼もまた反撃を試みる。
威力そのものは大きいが直撃さえ避ければ切り返しは困難ではない。爆発跡から立ち上る黒煙が煙幕となって視界を遮る。相手の姿は見えない、それは相手も同じはずであるのだがニナは確実にディルの居場所を狙い爆発を起こしてくる。
ニナはディルの居場所を把握している。攻撃の正確性から考えてもそれは確かだろう。しかし、それは此方にも言えること。ディルもまた彼女の居場所が手に取るように判った。ニナの発する強い『気配』が彼女自身の居場所を正確に伝えてくれる。

「そこだっ」

足元の爆破の瞬間に地面を蹴ると、風の一撃を放つ。狂ったままの感覚では細かな制御は出来なかったが、大まかな位置と大きさを調節出来れば十分だ。風の刃は黒煙を薙ぎ、少女を捉えた。

「――!」

風はニナを呑み込んで、その動きを封じる。しかしそれも束の間。轟いた爆音がそれを打ち消し、燃え上がった炎が気流を生んで風を上空へと逃し、払う。

「その程度じゃ、ニナは殺せないよ?」

少女の瞳がぎらりと鈍い輝きを放つ。今制御可能な最大の威力をぶつけたつもりだったのだが、少女は傷一つ負わず平然と立っている。

「どうしちゃったの?そんなものじゃないでしょ?もっと遊ぼうよ」

不満そうに頬を膨らませながら、ゆっくりとニナがこちらへ向けて歩みを進めてくる。
舌打ち、額に汗が滲む。

――相手は傷一つない。これ以上の力は制御できない。

その距離が詰まる。呼応するように、高鳴っていく鼓動。

――しかし、このままでは奴に傷一つ負わせることができないだろう。力が必要だ。もっともっと、強い力が。
制御限界を超えた力、それを行使することでどうなってしまうのか。それは分からない。

だからなんだ。
理性の制止を押し切って、疼く。身体が求めている、本能が求めている。

――俺はまだ戦える。ならば、答えはひとつ。躊躇うことなど在るはずがない。倒すべき、戦うべき存在を前にして、戦うことを選ばないわけがないだろうが。

「いいぜ、てめえは俺が壊してやる」

戦いを。



[*前へ][次へ#]

30/41ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!