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目を覚ました獣たち8

「貴重なサンプルはきちんと持ち帰らないといけないからね。君たちは俺がもう逃がさないよ」

獲物への道を阻まれた猛獣たちは、一斉にその視線をダズへと向ける。本能をむき出しにした威嚇の声が一斉に降りそそぐ。だが、ダズは動じない。

「この場で俺に敵う者はいない。みんなまとめて、かかってくると良い」

放たれた言葉を引き金に、爪が、牙がダズを八つ裂きにせんと飛び掛かる。だが、生みだされた氷の世界。寒さで動きが僅かに鈍った猛獣たちにダズを捉えることは叶わない。牙を突き立てるも、そこに在るのはただの氷の塊。それに気付いた獣が離れようとするも、一体、二体と氷塊から棘のように生じた氷柱が次々にそれらを貫いては動きを封じていく。

僅かに残ったのは数体の猛獣のみ。ダズは急速に接近し、その急所を次々と切り裂いていく。その速さは完全に獣たちを圧倒していた。裂かれ、むき出しになった体内から鮮血が吹き出して、氷の世界を赤く染め上げる。
血しぶきを上げながらも獣の身体は再生、修復をしようとする。だがダズはそれを許さない。ぱっくりと開いた傷口から直にその血液を氷結させ、その機能を完全に制止させる。

「いくら再生力が高くても、この空間でこうなればしばらくは動けないはずだよ」

頬に付着した血液を拭うと、ダズは動きを停止した獣たちを一瞥する。
一見すると普通の動物と変わりはない。しかし、先程目にした通り通常ではありえない再生能力をその身に有しているのは明確だった。

猛獣はこれで全て掃討しただろうか。しかし、これらの情報を調べに行ったジャルが未だに戻らないというのが気がかりだ。

――まさか、彼の身に何かあったのだろうか?

そこまで考えて、目の前の光景にはっとする。
先程までステージにいた少女が、今まさにダズの眼前で微笑んでいるのだ。

「!」

気付かなかった。いつのまに? 考える。だが、もう遅い。

「おまえ、邪魔」

光のない、淀んだ瞳がダズを映してそう言った。
瞬間、閃き、衝撃と熱が彼を襲う。

「ぐあっ」

刹那の所で爆発の直撃を避けたダズだが。その余波が生んだ爆風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
熱に焼かれたのか、激しく痛む左足に呻きが漏れる。
苦痛にうずくまったまま動けないダズのその横を、まるで何事もなかったかのように少女が通り過ぎていく。

「違うの。ニナが欲しいのはおまえじゃない」

ぺたり、ぺたり、裸足のままの足取りがゆっくりと凍りついた地面を歩いていく。

「ニナが、欲しいのは――」



会場上空の窓から、依頼人を連れて外へと抜けだした。
ぐったりとうなだれたままの立派な体格を持った中年男性の重量はやはりただ事ではなく。ずっしりと伝わる重量が無駄に体力を奪っていく。

会場の外は、逃げ出した人々と騒ぎを聞き付け集まった野次馬でごった返していた。傷を負った貴族たちが急いで搬送されていったり、応急処置を受けている。警官隊だろうか、かっちりとした制服に身を包んだ集団が状況の整理に駆けまわっている。



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あきゅろす。
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