目を覚ました獣たち7
「これが、再生する獣……」
本当にこんなことが起こるなんて……とダズが思わず声を上げる。
その間にも、完全に傷を癒した猛獣は獲物を求めて牙を振う。それを素早く、今度は彼らを遠ざけるように暴風を発生させて吹き飛ばす。
なおも体制を整えて突進してくる敵を、風の力で押さえつける。それでも相手の力の方がこちらを上回っており、その距離はどんどん小さくなっていく。
「くっ」
ディルはより強い力で応戦しようと力を込める。しかし少女の存在、彼女が放つ悪寒にも似た『気配』が感覚を狂わせる。一瞬でも気を抜けば力の制御が利かなくなり、猛獣たちの進行を許してしまうだろう。それだけは避けなければ。
「おい!何をしている!!」
そう思った矢先、上擦った声とともに震える腕がディルの肩を掴んだ。
騒ぎの中、逃げ遅れたリックフォルクが助けを求めに来たのだ。
「邪魔すんな――!」
ディルが声を上げるも、彼によって集中が乱されてしまった。風の制御がうまく出来なくなる。一瞬暴発したかのように炸裂すると、その威力はみるみる弱まっていく。
「そんな奴ら相手にしている暇があったら私を守らんか!馬鹿ものぉ!!」
汗やら涙やら煤やらで顔をぐしゃぐしゃにしたリックフォルクが騒ぐ。
風の防壁がなくなり、完全に無防備なそのふくよかな身体は猛獣にとって魅力的な標的なのだろう。真っ先に彼めがけて涎を滴らせた数体が飛びかかってくる。
「ひょあああああああああああ!?」
「うるせえっ!!」
迫りくる本能むき出しの猛獣たちに、恐怖をむき出しにした滑稽なほどの叫びを上げるリックフォルクを一喝すると。彼を担いでディルは後ろへ飛び退く。ついさっき彼らがいた場所には猛獣の牙が深く突き刺さった。
逃げた獲物を追う猛獣の執念を、ダズの放った幾重もの氷の刃が貫く。その肢体もろとも地面に突き刺さった氷柱は、大きな音を立てて一帯を氷漬ける。
「ディル!君は依頼人を連れて外へ!ここは俺がくい止める」
「俺も戦う!」
「駄目だ!今は依頼人の安全が第一だ。それに、君は今上手く力が使えないんじゃないか?そんな状態で戦われるのは危険だ」
「――!」
先程力の制御がきかなくなった一瞬をダズは見落とさなかったらしい。それに依頼人の護衛が最優先であることも間違いではない。ディル反論の余地はない。
「――わかった」
恐怖のあまり気を失ったのか、すっかり静かになったリックフォルクを担いだまま、ディルは会場を飛び出す。
しかし、足止めになっていた氷たちが再び起こった爆発によって溶かされてしまい、猛獣たちが解放される。逃げ出した獲物や未だ逃げ切れていない人々を逃すまいと、再び猛獣たちは動きだす。
「させないよ!」
四方に散ろうとした獣たちのゆく手を阻むように、ダズは彼らの足元目がけて氷で形作ったメスを投げ付ける。地面に突き刺さった無数の刃は、強烈な冷気を発しながら急激に成長していく。そしてそれは逃げる人々を守るバリケード、四方を囲む巨大な氷の壁となる。
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