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目を覚ました獣たち6

「なんだなんだ」

「どうして女の子が?」

「予定と違うぞ!」

「どういうことだ!」

観客の怒鳴りつける声が次第に数を増していく。

「ほんとに、どうなってるんだ……?」

ぽかんと口を開けていたダズが、困惑を言葉にする。

「…………」

それに一瞥もくれず、ディルはステージの少女を注視し続ける。
いまだ高鳴り続ける鼓動、鳴り続ける警鐘、焦がれるような引力が、全てを物語っていた。

彼女が、この『気配』の元凶であると。

しばらく会場内を見渡しているようだった少女が、突如として此方を見向く。
痛いくらいにまっすぐなその視線と交錯し、少女の表情が一気に華やいだ。

「みぃーつけたっ」

会場いっぱいに響く、あどけない無邪気な声色。その瞬間がさらなる混濁の始まりだった。
轟音、烈風、灼熱、それらが一気に駆け抜けた。悲鳴と絶叫が、炎と灰煙に混じり合って覆い尽くす。

「爆発!?」

突風に目を細め、口元を抑えてダズが声を上げる。
その言葉の通り、少女が立っていたステージ付近で爆発が起こったらしい。焦げ付いた臭いと瓦礫と化した目の前の光景がその威力を物語っている。
幸い、その威力にも関わらず爆発の範囲は小さかったようで、ステージに最も近いであろう最前列にいた観客はその直撃を避けられたようだ。しかし当然無傷では済まされない。火傷や、飛び散った破片によって傷を負った者も多い。

「あははははははは」

混乱した会場内に狂ったような笑い声が響いた。
爆発の中心にいたであろう少女が、ステージの上でくるくると踊っているのが見えた。その姿には傷はおろか、灰の一つ付着していない。

「なんだんだ!? あの子は……」

信じられないものを見る、といった顔でダズはステージで笑い続ける少女を見上げる。

「知らねえよ……っ」

そんなのこっちが聞きたいくらいだ、とディルは煙幕越しにステージを睨む。
少女が放つ異様な『気配』が気がかりだが、その後ろに僅かに別の『気配』をいくつか感じる。そしてそれは、猛獣の姿をして目の前に現れる。

瓦礫のステージでくるりと一回転する少女、その後ろで喉を鳴らす猛獣の群れ。
混沌の襲来にしては、ずいぶんと珍妙だ。だがそんなことを笑っている余裕など、当然ながらない。
危機を感じた人々が一斉に会場から逃げ出し始め、入口には多くの人が殺到する。逃げ遅れまい、我先にと人を押しのけ走っていく様子に「落ち着いて!」「慌てないでください!」と誘導の声がかかる。

「いっけえ!」

それをあざ笑うかのように、少女が人の群れに向かい指を指す。すると、今まで大人しかった猛獣たちが、鎖を解かれたかのごとく一斉に飛び出していく。

「っくそ!させるかよ!」

入口の混雑で会場内から出ることができず、一点に固まった観客たちは猛獣たちにとって格好の餌食だ。一目散に群がってくる脅威を、ディルは一閃でなぎ払う。
しかし、先日の猛獣と同様風によって二つに裂かれたはずのその体躯は、一瞬のうちに修復されてしまう。



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あきゅろす。
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