目を覚ました獣たち5
「ずいぶんと客観的な考えだね。君も同じ人間じゃないか」
「そうか?」
「そうだよ。君にはないのかい?不安とか、そういうものは」
「――」
ダズに問われて、ディルは分からなくなった。
そう、自分も人間だ。目の前の彼や視界の中で熱にうごめくそれらと。
――同じなのだ、自分も。だが……
差異。確かな差異がそこにはあった。感じる違和感。
――本当に、同じ?
彼の問いに、自分は答えられない。
「君のように、感情に流されずいられたら良いんだけどね。俺も」
君がうらやましいよ、と小さく呟かれるダズの言葉。それがディルの耳に届くのとほぼ同時に、会場内が今日一番の熱気を孕んで盛り上がる。
「本日一番の目玉商品の登場です!」
歓声にまぎれて視界のアナウンスが声高に叫んだ。大歓声に沸く場内の中心、ステージに一気に注目が集まる。
ディルとダズも意識をステージへと集中させる。これまでの出品された品の中に目当てのものはなかった。目玉商品と大きく銘打った前口上からも、次の品が「再生する獣」である可能性は高い。
目標との接触が近い。ここは目の前の事に集中しなくてはならない。そう分かっているのだが、ディルは思考から混乱を取り去ることが出来ないでいた。
『感情に流されない』君がうらやましい。
ダズは確かにそう言った。しかし、そうじゃない。感情に流されないのではない。そう、はじめからそこに感情が、不安が、恐れが存在しないのだ。抱くことの出来ないものは、当然理解することなど出来ない。
それが何故なのか、その理由など気にしたことなどなかった。その必要などないのだから。
なのに、どうして。こんなにも引っかかる?
「くそっ」
――考える必要なんてないだろうが!
ぐるぐると絡まる思考を振り切るべく首を振る。
その時だった。心臓が急激に高鳴る。そして感じる。引き付けられるような『気配』。
今まで感じてきたどの気配よりも、強く、確か。頭を、指先を、全身を駆け巡る。それはまるで突き刺さる視線。鼓膜を貫きなおも激しく響く、声のような――
今まで熱気に湧いていた場内が一気に静まっている。
観客の視線はいまだステージの一点に注がれたままだったが、そこに映る光景は、彼らが期待していたどの光景とも全く似つかないものだった。
少女。
そこに在るのはたった一人の少女の姿。癖一つない金色の髪をステージから注ぐ光に輝かせて。静かに頬笑みを浮かべたまま、白い肌を同じく真っ白なワンピースに包んで、立っている。
その場にいる人々、観客だけではない、司会者さえもその光景を疑っているようだった。一瞬の静寂が波のように過ぎ去ると、次第に会場内がざわめきはじめる。
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