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目を覚ました獣たち4

何処からか、銃声が聞こえた気がした。

ディルはあたりを見回すも、ステージに沸く雑踏がそれをかき消して確証は定かではない。隣に立つダズはそれに気づいていないようで、真剣な面差しでステージの行方を見守っている。
先程の男との接触以来、ダズの様子はどこか違和感があった。人間が後ろめたい何かを必死に悟られまいと隠す、そんな時のそれだった。
ディルの視線に気づいたのか、ダズは小さく首を傾けた。

「どうかしたかい?」

口調そのものはいつもと変わりない。こちらを覗くその視線から目を反らして「別に」とだけ応える。

「そうか――」

それきり、再び会話が途絶える。会場内はお目当ての商品の落選に必死な観客の声で埋め尽くされ、沈黙すらかき消してしまう。

――煩い。
ざわめきがやたら耳に付く。目の前に映る光景は、欲深い人間たちの醜い姿だ。良く分からない価値を決められた、良く分からない珍品とやらを手に入れるためにあそこまで執着する。なにが彼らをそこまで必死にさせるのか全く理解できないし、その必要性が分からない。

――ここに在るものを、すべて壊してしまったらどうなるだろうか。
醜い人間も、彼らにとって価値のあるモノたちもぜんぶ消えて無くなってしまえばすべて無意味なものになるだろう。
きっと自分は、一瞬ですべてを無意味にしてしまうことが出来る。すべてを壊してしまうことが出来る。それはあまりにも容易い。
だというのに。一瞬で消えてなくなってしまうものを、彼らはどうしてそんなにも求めるのか……

「――気に、ならないのかい?」

振り絞るように唐突にダズが発した声が、ディルの思考に歯止めをかけた。いきなりなんだ、何を言ってるのかよく分からない。そう口にすると、少しためらってダズは目を伏せる。

「……さっきのこと、だよ。俺のこと、人殺しだって聞いたろう?」

「そのことか。言えないんじゃないのか?」

あの時ジャルが追求しようとしたが、ダズはそれを拒んでいた。関係ない、そう言ってそれ以上聞くことを許さなかったはずだ。

「……」

「別に、お前の過去なんかに興味はない。知りたいとも思わない。それに、意味が分からない。聞いた所で何も言うつもりがないくせに、何故そんなことを聞く?」

「――はは、興味ない、か。それに、その通りだ」

ダズは苦笑すると伏せていた目を正面へと向ける。こちらを向くことはなく、視線はただ真っすぐ前を見たまま。

「いや、ね。……君が何も問わないから、それが不思議だったんだ。どう思われたのか、不安にもなるだろう?」

「いちいち他人に干渉していられるか。不安?ますます意味が分からない。お前もジャルも、何故その気がないくせに聞かれたがるんだ。俺のことなんて、他人がどう思ったかなんて、どうでもいいことだろうが」

「そうか、すまない。余計な心配だったね」

「……変なモンを欲しがったり、他人を気にしたり、あんたたち人間は余計なことに労力を使うことしかできないのか」

そこまで言ったところで、ダズの視線が自分へと向けられている事に気づく。まるで知らない何かを見るような、そんな不思議そうな目だった。



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