目を覚ました獣たち2
「女の子……!?」
猛獣たちがいる檻の中に、ひとりの少女の姿があったのだ。鎖に繋がれているとはいえ、そこにいるのは見るからに獰猛そうな獣たちだ。そんな中に、まっすぐな金色の髪、青白く細い肌、身を包むのは一枚の白いワンピースのみ。猛獣の檻にいるにはあまりにも無防備なその様子に、助けなくてはという感情が湧くが、一方の少女は至って落ち着いた様子で猛獣たちも彼女を襲う様子はない。
なんとも異様な光景だが、少女の身に危険が及ぶ心配はいらないようだ。
ここにいる、ということはおそらく彼女もオークションに出品される商品なのだろう。人間の売買もここでは良くあることだ。
「助けてえけど、今は時間がねえ。ごめんな」
いつ関係者がこの場にやってくるか分からない。そんな状況で檻の中の少女を助け出すことは困難なことであることは分かり切っている。
少女へ向かってそう告げると、檻の中の瞳がこちらを向いて、微笑った。
ぞくり。
言いようのない悪寒が背筋を駆け抜ける。その理由は分からない。
けれど、全てを見抜かれたかのような気持ちの悪さが、矢のように身体を貫くような確かな感覚。
――これはなんだ?
確かめるように再び少女の方向へと目をやろうとするも、突如聞こえてきた話し声がそれを阻んだ。
「っと」
声は複数人のもので、はっきりと聞き取れることから距離は近い。少女のことが気がりだが、見つかってしまっては元も子もない。ジャルは慌てて物陰に身を潜めて、静かに耳を澄ました。
「――貴方様の協力のおかげで研究を前進させることが出来ましたよ」
「いや、貴重な物質の提供があったからですよ。感謝しているのはこちらの方です」
「研究員が優秀でね。私は何もしてはいませんよ。何にせよ、これで目的の達成に近づいたというものだ……」
落ち着いた口調で響く男性の声だ。声は次第にこちらへと近づいてくる。そして二人の人影は猛獣たちが繋がれた檻の前で止まる。
彼らの視線と会話の内容から、それが猛獣に関するものだとジャルはすぐに分かった。室内は薄暗かったが、僅かにおかれた照明の光が彼らの姿をはっきりと映しだした。
「……!」
ジャルは思わず息を呑んだ。
彼らの姿に見覚えがあったからだ。そのうちの一人はついさっき会話を交わしたばかりの人物であった。すらりと伸びた長身と、後ろ手に束ねた薄茶色。眼鏡が照明を反射してその口元の笑みを歪に象る。間違いない、ジャルは確信する。先程ダズが先生と呼んでいた男だ。
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