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はじまりの来訪11

一瞬の沈黙を経て、ディルはディーナへ見据える。その瞳はいまだ冷たい光を放っており、直接対峙していないはずのベルトでさえ、ぞくりと背筋が凍りつくような気がした。

「……巻き込まれた奴が死のうが関係ない。助ける義理もない。邪魔なだけだ」

感情のない声でそう言い放つディル。本心からのものなのだろう、彼の言葉には迷いの色も、躊躇いもない。
自分とそう歳の変わらない少年の放つ言葉とは思えない。ベルトは息を呑む。
傍らのディーナは、彼を見つめる瞳に悲しみの色を秘めながら、ほんの少し表情を歪ませて「そう」とだけ呟いた。

「でも、ベルト君を家まで送り届けるくらいはいいわよね。いろいろ聞きたいこともあるし、それくらいは文句ないでしょう?」

強い意志を瞳に宿すと、ディーナはディルへと向き直る。

「……勝手にしろ。俺はさっきの猛獣を調べてくる」

そう言うとディルは先ほど斃した猛獣のもとへと行ってしまった。

「……もう…。ごめんね」

目を伏せてため息をつき、申し訳なさそうにベルトを見るディーナ。

「いや、なんでディーナさんが謝るんですか!俺は、うん。なんかもう、大丈夫です。ちょっと、びっくりはしたけれど」

自分を気遣ってくれるディーナには先程から感謝の念を抱きっぱなしだ。やはり戸惑いは隠しきれないものの、ベルトはせめて気丈に振る舞おうとする。

「困ったなぁ。なんでこうなっちゃうんだろ」

「でも、あの人いつもあんな感じなんですか?怖いというかなんというか……。俺、ちょっと、いやかなり、ダメなんですけど……」

先程たまった鬱憤をはきだすように、首をぶんぶん横に振りながらベルトは訴える。もちろん、彼に聞こえることのないように小声である。
そんなベルトに苦笑いすると、ディーナはすっかり暗くなった空へと視線を向ける。

「ディルに嫌な印象抱いちゃったんならごめんね。悪い人じゃないのは本当よ。信じられないかもだけど」

悪い人ではない。彼女はそう言うが、やはり信じられない。あの態度を前にしたら誰だってそうだろう。はっきり言って印象は最悪だ。人との出会いは第一印象がものをいうとはいうが、ここまで最悪な第一印象はそうそうないだろう。良い印象をもてというのは無理な話である。

「うん……。まぁ、そうですね」

あいまいな返答を返したベルトの脳裏にふと疑問がよぎった。今までいろいろありすぎて吹き飛んでいたが、落ち着きをとりもどしたことで思い出したのだろう。

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