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目を覚ました獣たち1

「ったく……あの変な男。まったくもっていけすかねえぜ。ダズの野郎も、なんか言えよな畜生」

オークション開始後、ジャルは会場内部へと潜入するためすぐに別行動を取ることとなり、ダズにはあれ以上何も聞くことが出来なかった。どうにも煮え切らないが彼の言い分も納得がいく。ジャル自身も昨日出会ったアーシラの事を彼らに話す気は起きないからだ。自分のことを棚に上げて人の話だけを追求するなんてことが出来ようか。
これ以上その事に考えを巡らせていても、余計にもやもやが増えるだけだ。そんな事よりも今は任務を第一に考えなくては。この任務の成功は、ここでの自分の働きにかかっている。情報を手に入れられなくてはここに来た意味がない。気を引き締めよう。頬を二度ほど軽くたたくと、窮屈だったネクタイを緩めて意識を集中させる。
すると、ジャルの周囲の空気がわずかに揺らいだ。重力、世界に存在する全ての物質に作用し、そこからは決して逃れることのできない引力。ジャルの能力はその重力そのものに干渉することができる。重力に干渉し、その本来の法則を御無視して引力のベクトルを自在に操る、それが彼の力である。
ジャルは自身にかかる重力を完全に絶ち、通常とは逆のベクトルでの引力を生み出す。彼にとって本来天井である部分が地面、地面のある部分が天井となる。

「っし、行くか」

勿論会場内部にも人はいる。それらにばれないように出来るだけ気配を消して、死角を縫うように進んでいく。状況に応じて重力操作を操作しつつ、天井、壁をできるだけ臨機応変に移動する。
会場内部の見取り図はあるものの、薄暗く似たような構造の通路が続くと位置感覚が分からなくなってくる。ステージ近くにはある程度あった人の気配も、だんだんと無くなって今は誰も見当たらない。
道を間違えたか……?そんな不安が生まれたが、それはすぐに打ち消される。
獣のうめき声が低く響いた。
周囲を注意深く確認すると、狭い間隔で規則的に並べられた鉄パイプ。その中で猛獣たちが鎖に繋がれているのが見えた。

「檻、か?」

獣を逃さないための檻になっているのだろう。鉄格子の間隔は狭く、内側に入って調べることはできなそうだ。一見すると何の変哲もない獅子のような猛獣だが、オーション会場内部にいるということはこれらが例のコアを持つ猛獣ということで間違いはないだろう。
どうにかして調べられないか。ジャルは檻の中をじっと覗き込んで、そして、普通ではあり得ない違和感に気付く。


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