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夜の世界9

依頼人を迎えて、オークション会場へと向かう。
昨日の時点でかなりの人数が集まることが予測されていたが、会場に存在する人の数は予想をはるかに超えるものであった。地図で確認した通りに配置された、ステージを囲む客席は人でびっしりと埋め尽くされており、遠巻きに見ても息がつまるようだ。昼前だというのにトラヴィスの空は夜の光景であり、それが体内の間隔を狂わせるためにその閉塞感を増大させるようだった。

客席に立ち入れるのはオークション参加者として正規の手続きを踏んだ者たちだけらしく、三人は客席へと向かったリックフォルクを遠巻きに見守る形となった。

「ったく、こんだけ離れてると護衛にならねーじゃねーか……っていうか、すっげー動きづれぇんだけどこの格好!!」

「ったくうるさいよ!それとしゃんとしてろって」

シャツの襟元に手をかけ、ネクタイを緩めようとするジャルをダズが慌てて制止する。
非合法とはいっても金持ちたちが集まるオークションだ。それ相応の身なりをするというのが礼儀である。ということで、参加者である依頼人以外の人間も正装をしなければならないらしい。護衛の立場である三人もそれぞれ黒を基調としたスーツ姿で会場にいるわけである。リックフォルクから手渡されたその服は彼にとっては普段着レベルの材質であるとはいっても、一般人にとっては上質素材を使ったかなりの高級品だ。着ているだけで身が引き締まるほどだが、ジャルにとってはそれが窮屈でしかないようだ。

「確かに、動きづらい……」

ぴっしりと全身を覆う衣装は見ている分には場の雰囲気に適した立派なものであるが、着る側としては迷惑なほどに煩わしさを覚える。ディルは顔をしかめてネクタイを緩めようとするが、それもダズによって阻まれる。

「二人とも、動きづらいのは分かるけど決まりには従わなきゃ。ここから追い出されたら元も子もないだろう」

「そう言うおまえもなんでマフラーしてんだよ、取れって」

ジャルに指摘され、ダズは思わずドキリと硬直する。彼もまた同様にスーツを着ているが、その首元にはいつも巻いているマフラーが確かな存在感を放っていた。

「い、嫌だよ!絶対に!」

両腕で隠すようにして、断乎として外すことを拒否するダズ。何故それほどまで嫌がるのか、理由を問う。

「昨日も言っただろう。これは俺の宝物なんだ。何があっても肌身離さずにいたいんだ」

とても大事そうに首元のマフラーに触れるダズ。それは本心からの言葉であるのだろうが、その感情がディルにはいまいち理解できない。その傍ら、ジャルには何となく通じるものがあったのかそれ以上の言及はしないようだ。

「分かったよ。悪かったな」

「いや……ごめん、ありがとう……」

そこまで言って、ダズの表情が微かに変わった。マフラーへと向いていた意識がまったく別の方向に集中していく。頬を強張らせ、僅かに見開いたその視線が一点に向いていた。そこにあるもの、否、そこにいる人物に。



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あきゅろす。
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