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夜の世界8

「いいかい?オークションの際、俺たちは依頼人の傍を離れるわけにはいかない。だけどそれは三人全員が傍に居なくてはいけないわけではない」

説明の意図が分からないのか、で、一体何なんだ?と言わんばかりの表情。内心呆れかえるダズだが、ここでそれを指摘しても話がこじれるだけだ。触れずに続ける。

「会場に入ってから、オークションが始まるまでには時間がある。その間に、俺たちの中の一人が会場内部へと潜入するんだ」

「潜入!」

そう聞いて、ジャルの表情が僅かに華やぐ。潜入の二文字に好奇心や冒険心をくすぐられたのか、いずれにしても思考が幼稚である。遊びではないというのに。

「そう、潜入。もちろん容易ではないと思うけど、ステージへと品物が運び込まれる通路――ここが唯一の潜入経路だろう。ここから内部へと入り情報を集めてもらう。ステージに面したこの通路から侵入するなんて普通は簡単に見つかってしまうだろう。そこで、お前の能力が役に立つんだよ」

「なるほどな!」

ぽん、と拳を手のひらに打ち付けてジャルは納得の様子だ。

「重力に縛られず移動できる能力なら、相手の意表を突いて潜入することが可能だと思うからね。まあ、そこはお前の腕次第なんだろうけど」

そこが一番の不安要素だ、という言葉が喉から出かかるのを押し込めてダズはディルへと目をやった。

「潜入と情報収集をジャルに任せている間、俺たちは依頼人の護衛に専念ってわけだよ。大丈夫かな?」

「ああ」

ディルが頷く。彼もまたダズにとって不安要素の塊ではあるのだが、行動を共にしていればフォローすることは可能である。あとは、非常事態に備えて依頼人を護衛しきれれば問題はないだろう。

「各自役割が終わったら会場内にて合流、だね。ジャル、君にかかってるんだからヘマするなよ?」

「その言葉そっくりかえすぜー!」

やけに自信満々であるその様子に逆に心配になる。だが、案じていても仕方ない。自分は自分のするべきことをするだけだ。

オークション開始時刻は明日の正午。気を引き締めていかなくては。ほんの少しの緊張感を抱いて、任務に備えて眠りにつくのであった。



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あきゅろす。
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