夜の世界5
トラヴィスの中心部に位置する巨大な賭博場。そこに作られた大きな特設のステージで明日のオークションは行われる。まだ前日だというのに会場には多くの人が集まっていた。
商品の保護の目的もあってか、開催までステージのある大会場には入れないようになっており、立ち入りが許されていたのはその直前の広場までのようだ。
ディルたちは会場に隣接したホテルまでリックフォルクを送ると、少し離れた場所にある格の低い宿泊施設へと向かう。
依頼人が泊まるのは貧民街と呼ばれるこの町には不似合いなほどの電飾やオブジェが飾られた高級ホテルで、賭博目的で来た貴族御用達らしい。護衛と離れることは危険ではないかというダズの意見も、最先端のセキュリティと長年の経歴による信頼を誇るこの建物の前には杞憂だったようだ。三人はそこから少し離れたレオが手配したという別のホテルで休むこととなった。
「しっかし、オンボロホテルだよな!格差ありすぎだろ」
部屋に入るなり、荷物を放り投げたジャルがどかっとベッドに腰掛ける。
三人に与えられたのはみっつ寝具が並んだだけの、さほど広さもない客室だった。
一本路地に入ったというだけで、その様相は貴族たちの宿泊施設とは雲泥の差。休息を取るのには十分ではあるが、薄汚れた壁や備え付けられた家具の年季の入った様子はまさにジャルの言葉通りである。腰かけた途端に舞い散った埃が宙を舞うのを見て、ダズは顔をしかめる。
「しかも、一部屋だけかよ。ったく、レオさんめケチったなちくしょう」
唇をとがらせて、ジャルは両足をばたつかせる。
「げほっ、ジャル、あまり暴れないでくれ……埃が舞うから」
「あ?このくらい別に気にするもんでもねえだろうが。これだからお坊ちゃんは」
「普通は気になるだろ?お前、綺麗好きなんじゃなかったのか……」
咳き込みながら不快感をあらわにした顔でダズは部屋の窓を開け放った。生温い外気が入り込むとともに、埃っぽい空気と入れ替わり部屋を満たしていく。
「まあ、綺麗な方が好きだけどよ。この場合は別だろ。あ、あとあんまり外気を知り込まない方が良いぜ?地上の汚染されたもんがいろいろ流れ込んでて、綺麗な空気とは言えねえんだから」
「そうなのか?」
「ああ、だから窓は閉めとけ」
ジャルの言葉を聞くなり、ダズはすぐさま窓を閉める。色あせた窓枠が乾いた音をたてて軋む。
「確かに、ここの風は淀んでる」
二人から少し距離を置いてやりとりを眺めていたディルが開口する。
「だろ?上の世界の汚ねえモンは下に隠しちまえってな。そんなわけでトラヴィスの外気は長く吸わねえ方が良いんだ。本当はな」
胡坐の体制に足を組み換えながら、得意げにジャルは語る。
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