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夜の世界2

トラヴィスは法の目の届かない無法地帯である。貧しさや自らの罪から逃れてきた地上の人々が最期に流れ着くのがこの町だ。従来ならば、軍がこのような町を放っておくわけなどないのだが、この町で行われる賭博、オークションには貴族たちが一枚噛んでいる。地上では決して味わえないスリルと高揚感を得られる、彼らの最高の娯楽の場と言う訳だ。前述したように貴族の持つ権力は大きく、軍も迂闊に手を出すことができない。貴族は軍のパトロン的な役割を担い、その代わりに彼らからある程度の権力を与えられている。貴族の支援をなくしては軍も今の統治を続けることはできないだろうと言われており、それが真実であるが故に軍は貴族相手には迂闊に手出しができず、トラヴィスの在り様には目を瞑っているというのが現状となっている。スラム街に住む人々に新たに居場所を与えるような救済策が未だ見つかっておらず、その処遇をめぐる議論が宙に浮いていることも要因の一つではあるが、トラヴィスが放置され続ける一番の問題は貴族との問題が原因であるという見方が一般的だ。

今回開かれるオークションは目玉商品も多く、参加する貴族たちも多いようだ。ここの治安の悪さを考慮してか、どの人々も周囲には屈強そうな護衛が立っている。鍛え上げられた肉体と強張った表情から放たれる威圧感。軽装で屈強そうにも見えない男三人のこちらと比べると明らかに強そうだ。同様に思ったのだろう、リックフォルクが眉根を寄せたのを見てダズは苦笑いした。


それにしても、今日はずいぶんと連れの二人が大人しい。
ディルはどうだか知らないが、地下に降りてからジャルが一言も言葉を発していないというのはめずらしい。こういったいつもとは違う風景に、人一倍リアクションをするのがジャルだ。そんな奴が今回はなんだか別人のように大人しい。

「なんだよダズ?俺の顔じろじろ見て。男から見られてもなんもうれしくねえぞ?」

ちらりと様子を見るだけのつもりだったのだが、安易に視線を気付かれてしまった。露骨に嫌そうな顔をされる。

「別に、好き好んで君の顔を見ているわけではないよ。任務において全体に気を配るのは当然のことだろう?」

眼鏡を中指で持ち上げると、光を反射してきらりと光る。

「偉そうにすんなよな〜」

唇を尖らせたジャルは不服の表情。それ以上は言葉を返さず、ダズは溜息だけで返答する。

「うわ、ムカツク」

「おいお前たち。何をひそひそと……煩わしいぞ。私はこんな所の空気を長く吸っていたくはないのだ。早くホテルへむかうぞ」

棘のある言葉が会話を妨げる。リックフォルクだ。



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あきゅろす。
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