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はじまりの来訪10

ベルトはしばらく黙りこんでいたが、次第に気分も落ち着いてきた。深く呼吸を繰り返すと、ベルトは顔を上げる。視界の隅に先ほどの残骸が映り、胃がきりきりと痛んだが、次第に慣れてきたようだ。直視はできないが。自分の順応性の高さに驚きと感謝の念を感じる。

「……いえ。助けてくれてありがとうございました」

いまだ顔色は優れないものの、だいぶ落ち着きを取り戻したベルトの様子にディーナは安堵すると、ベルトの礼に笑顔で応える。

「もう大丈夫です。迷惑かけてすみません」

ベルトはそう告げると立ち上がる。長く座り込んでいたせいもあり一瞬立ちくらみのように目の前がくらんだが、ふらつく身体をなんとか支える。

ふと、少し離れた場所に立っているディルと目があった。
先程の何の躊躇もなく猛獣を倒してしまった少年、鋭い眼光からは全てを拒むかのような威圧感を感じさせていて、ディーナとはまた違った異様な空気をまとっていた。
どきり、ベルトの身体が思わず強張る。

「あ、えと、はじめまして」

無言の気まずさに耐えかねて、軽い会釈をする。対してディルは怪訝そうに眉をひそめたと思いきや、すぐに視線をあさっての方向に向けてしまった。

―――あれ?

無反応。予想外の相手の反応にベルトは戸惑う。聞こえなかったのかな、とも思ったが目が合っていたことに加え、聞こえないほどに距離があるわけでもない。一瞬睨まれたような気もして、自分は何か相手の機嫌を損ねるようなことでもしただろうかと疑問すら抱く。
そんなベルトの様子を見てか、ディーナが慌ててフォローに入る。

「あ、彼はディル。私と一緒にこの森に来た仲間なんだけど……。この通り、人と接するのあんまり好きじゃないみたいなの。悪い人じゃないんだけど………ごめんね」

「あ、そうなんだ……。わかりました」

なんとも煮え切らない。複雑な心中のままベルトは二度、うなずいた。
なんだかあまり好ましい雰囲気ではないが、一応自分を助けてくれた恩人である。礼の一つくらい言っておくべきだろう。

「えっと、ディルさん。助けてくれてありがとうございました」

おそるおそる感謝の意を告げる。
するとディルは無言のままこちらへ視線を向ける。しかし、その視線はまるで憎き敵と対峙するかのように鋭く、警戒と敵意に満ちていた。

「お前を助けた覚えはない。消えろ」

「……なっ」

こちらが礼を告げたというのに。想いもよらぬ反応にベルトは驚愕と遺憾の意を抱く。「その態度はないだろう」そう怒りをぶつけてやろうかとも思ったが、こちらを睨みつけるディルの威圧感とに気圧され、ベルトの怒りはその心中にとどまるのみだった。

「ちょっと、ディル!彼は巻き込まれただけよ。その言葉は失礼じゃない?」

その様子を見ていたディーナがベルトの心情を代弁するかのように口を開く。
まさにその通りだ。内心でうなずきながらベルトは彼女に感謝する。

ディーナの言葉を受けてか、ディルの放つ威圧感が若干和らぐ。

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あきゅろす。
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