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はじまりの来訪1


「はあっ、はあっ」


静寂の森の中を少年は必死に駆ける。日はもう傾き木々が生い茂る森の中は薄暗く、目を凝らさないと前方の様子も視認し辛い。

少年はただただ我武者羅に前へと進んでいく。頭は正常に働かず。混乱と恐怖のみが彼を支配していた。

恐怖に満ちたその瞳がちらりと後方を見やる。そこには今現在の彼を支配する全ての元凶が追い迫ってくるのが確認できた。

猛獣、とでも言うのだろうか。いや、それよりももっと異様で不気味だ。彼に迫るは異形の化け物だった。虎のような様相をもちながら熊のように大きく、少年という獲物を前に大きく見開いた眼は血走り、半開きの口からはぎらりと牙が覗き、本能のままに涎が滴る。加えてそのしなやかな四肢の先からは鋭い爪が伸びている。

捕まってしまったら、その先に待つのは残酷なほどに凄惨な死のみだろう。
何としても追いつかれるわけにはいかない。逃げ切るしか生き残る術はない。本能的にそう察し、少年は走る。

もうかなりの距離を逃げ走っているが、猛獣は諦めることなく自分を追ってくる。少年は体力的にももう限界だった。酸素を求める肺はじりじりと苦しく、身体は思うように速くは動かず、距離は縮まるばかり。


―――あぁ、どうしてこうなってしまったんだ。


緊張が限界まで達したのか、妙に冷静になった頭のなかで、少年はいままでの経緯を思い返していた。




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