SS
貴方の、お前の、
※過去話




「なあ、桔梗ちゃん?」

桔梗のベットに我が物顔に寝そべる葵は、目を通していた雑誌から顔を上げ、机に乗った灰皿を引き寄せた。
ベットに背を向けるように机に向かっていた桔梗は、その様子を見て僅かに眉を顰める。

「そこで吸わないで下さいよ。」

言われた葵はギクリとしたように一瞬動きを止め、ベットから降りた。
そして机の角を挟むようにして座り、桔梗の手元を覗きこむ。

「真面目だねえ、桔梗ちゃんは。」

広げられたノートには、美しく整った文字が並んでいる。
「そこ、数式違ってる」
トン、と指を置いて指摘すれば、少し考えた後に細くしなやかな指が消しゴムに伸びた。

(綺麗な、指―――)

「で、何です?」
「ん?」

吸うはずだった煙草を忘れ、時折躊躇いながらも生み出されてゆく数字―ひょっとすると、生み出す指の方かもしれないが―を眺めていると、桔梗が顔を上げた。

「さっき、何か言いかけたでしょう?」

そう言ってまたサラサラと紙の上にシャーペンを走らせる。

「あー、その、な…」

珍しく口ごもる葵に、もう一度桔梗は顔を上げる。
カチリ、と合ったはずの目線を流れるように逸らされ、首をかしげた。
葵はそれに気づかぬフリをしているのか、忘れていた煙草に手を伸ばす。
慣れた手つきで口に銜え、火をつけると、嗅ぎ慣れた匂いが辺りに広がった。

桔梗は、この兄の吸う煙草の匂いが嫌いではなかった。
煙草を挟んだ指を、口元に軽く押しつける仕草もとても様になっていると思う。
それに何より、時々くしゃりと桔梗の頭を撫でるこの手が、好きだった。

「…やっぱ、何でもない。」

深く息をついて、一度吸いこんだだけの煙草を灰皿に押し付ける。

(―――もう少し、見ていたかったのに)

少しだけ残念に思った桔梗だったが、煙草から離れた指がこちらに伸びてくるのを感じ、密かに唇をほころばせた。











ナチュラルにいちゃついてますが恋仲ではないつもりです。
理事が高校生で桔梗ちゃんが中学生くらいで。
ちなみに理事は「彼女いる?」って聞こうとしてました。



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