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勿論殺す気で!(阿一)

「俺が22人いりゃそれがドリームチームだ…」

俺の目の前に座る男は、いきなり真面目な顔をしてそう呟いた。自然とコップを持つ手に力が入る。

ファミレスで俺の向かいに座り、食事しているそいつは悪戯の反応を伺うように俺を見た。
俺は意地でも表情を変えなかったが、こいつは目ざとく俺のコップが小さくピシッと悲痛な音を立てたのに気づいた。
そして、そいつは悪戯が成功したとにやついた。本当は大爆笑したいに違いないが、そうすると俺の右手が容赦なく頭に直撃することも分かっているのだろう。

(いっそのこと大爆笑して殴らせろ)

コップを机に置き、右手から力を抜く。

「俺は22人いてもドリームチームじゃないっすけどね!」


その台詞に力を抜いたはずの右手は躊躇することなく一休の頭に振り下ろされた。

「黙れ一休」


見事にヒットした手刀。
一休は頭をかかえながらしばらく悶えていた。
いい気味だと鼻で笑ってやれば、一休は「事実じゃないすか!」と文句を言った。

うるせぇ、事実だろうが嘘だろうが俺がムカついたんだよ。

そのような内容のことを告げると、一休は「相変わらずっすね」とまるで数年ぶりに会うような口振りで返した。

「やっぱり阿含先輩の黒歴史っすか?」

一休はコーラを飲みながら俺に聞いた。

(ふざけてんのか)

俺に黒歴史があるわけないだろう。あるとしたら…いや、ない。

「その前になんでそれを知ってやがる」

机に乗せた足を組みかえながら聞くと「モン太から聞きました」と笑顔で答えた。

「あのクソ猿!」
「いいじゃないっすかー!流石天才って感じっすよ」


苛つきでいよいよコップを割ろうとしたら、一休は素早く俺が手にとるまえにコップを奪った。

どういうつもりだ、と睨みつけてみても一休は未だ先ほどからの笑顔を崩さない。
ファミレスの他の客は物珍しそうに俺たちをちらちらと見ている。

(見てんじゃねぇよ)

周りをぐるりと睨むと、客は一斉に目を逸らした。一休はそれが面白かったようで肩を揺らして笑っている。

(今日の一休は笑い上戸かよ…ウゼェ)

思わず漏れた俺らしくない溜め息はしっかりと一休の耳にも入ったようだ。
今日の俺は疲れてるんだ。溜め息だって出る。
朝から女の相手をし、昼からはこの一休の相手だ。

(女の相手よりかは幾分マシだがな)

また出そうになる溜め息を水を飲むことで抑える。だが、それもまた一休の台詞により失敗に終わった。


「そこに俺だけは入ってもいいんすよね!」
「…ごふっ」


水を静かに噴き出す。
コメディ映画のように噴水のごとく噴き出さないようにはした。

一休は顔面にかからなかったことに安心したようで俺におしぼりを差し出した。

それに礼も言わずに乱暴に奪い取る。
口を拭きながら、一体だれから聞いたのかを尋ねる。またあのクソ猿だろうか。

「これは蛭魔から聞きました」
「あんのクソカス…!」


コップがさらにピシピシピシと嫌な音を立てた。あの金髪を思い出しただけで虫唾が走る。

そもそも一休はそんな野郎と交流していたのか。
そう思うと苛々はさらに募り、俺の頭の中のクソ金髪がケケケケと高笑いした。勝手に俺の頭の中に現れんなクソカス。


「いやー、嘘だと思ってたんですけどその反応だとマジだったんすね」


苛々する俺に照れ笑いでそんなことを言うものだから、盛大に舌打ちしてやった。

いつもなら「怖っ!くわばらくわばら」とか言いながら胸くそ悪い笑顔を引っ込めるくせに今日はどこから溢れるのか、やたらと自信があるらしく相変わらずへらへらしている。
殴んぞ!

流石に俺の苛立ちがヤバいと分かったのか、一休は笑顔を少し抑え「鬼驚きっすよ」と言った。

それはどういう意味なのだろうか。
俺がお前を気に入ってることに「意外」すぎて驚いているのか、「嫌」すぎて驚いているのか。

(後者だったらぶっ殺す)

もしくはそのどちらでもなく、あるいは、などと淡い期待を抱いてみる。

「…じゃあお前は俺のチームに入りたくないってのか」

俺が睨むでもなく殺気立って聞くでもなく、ただ尋ねたことに一休は驚いたらしく、目を丸くした。

「…だって21人の阿含さんですよ?」
「いいじゃねぇか」
「まぁいいっちゃいいですけど」


一休は曖昧に答えた。
俺は舌打ちを一つ。

俺がはっきりとした答えしか求めていないことを察したのか一休は困ったように眉を下げた。


(…何だってんだ)


一休ごときに感情が左右されるのが癪だったから、もうこの話はやめにして話題を変えたかった。

アメフト部のマネージャーについてでも話して気が済むまで一休を散々からかってやろう。

俺の「泥門の姉崎まもり」という言葉と被って一休はさっきまでの思案顔を上げてこう言った。


「阿含さんはひとりで充分です」
「あ゛あ゛?」

思わず射殺すぐらいの心持ちで睨んでしまった。一休は一瞬怯んだが慌て身を乗り出してきた。

今思うと、その時の表情はそれまで見た中ではなかなかそそられるものだった。


「阿含さんはひとりで充分素敵だって事っす!」


その時の俺に一休の必死な顔を小馬鹿にする余裕はなかった。

…ああ、最高の殺し文句だ。




(ケケケケ君の瞳に乾杯!ってか)
(何見てるんですか蛭魔さん?)


=======
阿含が原作のあの怖い感じが出せない…ややへたれてしまうのが悔しい…!いや、ヘタレ攻めは大好物ですが^^

最後のは蛭魔と瀬那も同じファミレスに来てて、蛭魔はずっと二人がいることに気づいてた、という感じです。
後で散々ネタにされます。主に阿含。

どちらかというと一阿な気がしてならない。最初は阿+一くらいで書いてたはずなのにな…

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