文章
忘れ物ですよ(戸黒)
今日は日曜日。
珍しく部活は午前中に切り上げられ、午後はフリーというダラダラ日和だ。
俺は家に帰ると早速漫画を読み始めた。これが俺の至福の時間だ。
「トガー」
…ただ、他に誰もいなければ、だが。
「どうかしたか」
俺の返答は漫画に集中しているため、生返事だ。
すると少し不機嫌そうなオーラが後ろから漂ってきた。
(…勝手についてきたくせに)
俺は少し面倒くさく思いながらも漫画のページをめくった。
そもそも黒木が部活が終わった後、俺の了承も得ずに勝手に家に上がり込んできたのだ。
なのに、俺に構ってもらえないからと不機嫌になられては困る。
「腹減った…」
「俺もだ」
(本当は減ってないがな)
黒木は俺のベッドの上でごろごろと転がっている。どうやら先ほど渡した漫画は読み終わったらしく、乱暴に枕元に置かれていた。
本棚に戻せ。
(折り曲げてあったら後でボコるぞ黒木)
そんな事を考えているとは黒木はつゆ知らず、俺の枕をぼふぼふしながら寝そべっている。
(…可愛い)
黒木はたまに俺のツボをついてくるから困る。
一応漫画のページは進んでいるが内容は頭に入っていない。思考は黒木に奪われてしまった。
だが奪った本人はそんなことに全然気づいてないに違いない。
どうせ、「トガはまた漫画かよ!」くらいしか考えてないんだろう。
「トガー腹減った!」
俺は漫画を閉じた。
後ろで黒木が体を起こしたのが分かる。
面白かったのでまた漫画を開いたらまた黒木はベッドに突っ伏した。
「…素直にご飯下さいって言えよ」
俺がそう呟くと、背中を蹴られた。理不尽な攻撃だ。
「分かってんなら言わすなよ!!」
「汲み取るが思う通りにはしてやらないのが俺だ」
「うわ、ウゼェ」
「お前の顔面の方がうざいぞ」
黒木はゆるゆると起き上がった。髪の毛が見事なまでにボサボサだ。
「…なんか今日はひどいな」
そうぽつりと呟きながら枕に顔をうずめる黒木を肘をつきながら眺める。
(黒木の匂いがつきそうだ)
あ、ちょっと思考が危うい気がした。
そんな俺に気づかない黒木は腹が減ったと繰り返し始めた。
「拗ねんなよ」
「じゃあ漫画読むのやめろ」
なんてわがままなんだ。だからお前は女にモテないんだと言いそうになったが、これ以上怒らせると後が面倒だからやめておいた。
「…漫画に嫉妬か」
俺が少しにやつきながら言うと黒木は勢いよく立ち上がった。
「ちげーよ馬鹿!」
確実に図星な黒木は、「アホ!」といいながら髪の毛を引っ張ってきた。
「抜ける抜ける」と言っても「抜けちまえ!ハゲろ!」と言われる始末。
「残念ながら俺はツンデレには萌えない主義でな」
「別に狙ってねーよ!」
はぁ、と俺がため息をつくと黒木は俯いてしまった。これは泣いてしまうのだろうか。困ったもんだ。
思わず十文字に助けてメールを送ろうかと思った。
「…もういいよ馬鹿トガ!」
黒木は持ってきていた鞄も、上着も持たずに走り出した。
しっかりと俺の漫画はつかんでいたが。
「そのサングラス似合ってねぇからな!」
振り向きざまに言われたその台詞に、ちょっとだけ凹んだ。俺のアイデンティティが否定されてしまった。
「…その捨て台詞はないだろ」
静かな部屋でため息を一つ。
黒木の鞄と上着を掴んで、きっと近くの公園で腹をすかして文句を言っているであろうあいつを助けにいくため、家を出た。
(お前、馬鹿だろ)
(おせーよ!)
(この鞄いらねぇってか)
(う、うるせぇ!返せよ!!)
(はいはい)
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ニヤニヤできる小説を目指した結果がコレだよ!
ひたすらアホな黒木と面倒見がよく余裕のあるトガが好きです^^
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