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文章
どうか俺を誰か殴って(アキレス→棘花)


アカーン!



俺の声がグラウンドに響いた。俺はボールを持って遠くへ消えていく大和を数歩追って歩みを止めた。


…アカン。


全然アカン。

何がアカンって何もかもアカン。何もかも上手くいかへん。


まるで神様に見捨てられたみたいや、と柄にもないことを思った。



(…アホか)



深く深く、深呼吸してまた練習に集中しようとする。

俺は一軍なんや。

俺が練習をしっかりせぇへんかったら下に示しがつかへん。私情は持ち込んだらあかん。

ましてや、失恋だなんて。



(練習や練習!)



頬を一発ぶったたいてからヘルメットを被り直した。











お疲れ様でした!と最後の力を振り絞って叫ぶ。

た、と言った瞬間に俺を襲う疲労感。部室に行って着替える気にもならへん。

俺はどないしたんや。


いつもなら鼻歌でも歌いながら部室に入りシャワーを浴びて「お先に失礼!」やら言うて帰んのに。

部活に集中できへんのに部活を終わりたくない。

終わったら余計なことばっか考えてまいそうで。



「大丈夫かい!」


バーンと背中を強く叩かれて数歩前によろめく。

じろりと睨んで振り返れば「おっとすまないね」と爽やかな笑顔で返された。



(…大和と話したらよけいアカンわこれ)


ふとそう思った。

今の俺のこの惨めな状況と大和はかけ離れているからか。

それに大和に愚痴りたくなかった。少しでも会話を始めれば弱音を吐いてしまうだろう。


(微々たる男としてのプライド、みたいなもんや)


「大丈夫や、ちょっと試験勉強のおかげで寝不足やねん」
「おや、勉強熱心なのはいいけど体調には気をつけないと」


体調管理は選手として基本だからね、と笑う大和。

そんなん分かっとるわ、と喉まで出かかる。
体調管理はできても精神管理ができへんのや。


大和は俺の気持ちを知ってか知らずか、今度は優しく俺の背中を叩いて歩いていった。


その背中を見送りながらも俺は自分に反吐が出そうだった。


アカン、大和が「いい奴」すぎる。


自分と大和を比べては勝手にひがんどる。こんなん最低や。




(…花梨)



頭に花梨の困ったような笑顔が浮かぶ。


花梨に片思いしていたときはなんか良かった。

不思議とアメフトももっと頑張れた。今もアメフトは好きやし試合にはいつも本気で挑んどる。

けど、どこか不調や。
いつも劣等感満載っちゅーか、自信なくなったっちゅーか。

今まで片思いを止めたいとは一度も思わなかった。

それは、いつか花梨が俺を見てくれるかもしれへんと夢見てたからかもしれん。


けど今はこの花梨への思いをどっかに捨てやなアメフトに集中できそうもない。




(あーあー…)



無性に花梨に俺の思いをぶつけたい。今更当たって粉々に砕けたい。いっそこっぴどく本人にふられたい。

そしたら俺は惨めさを感じずに済むやろう。すっきり笑って過ごせるやろう。

俺はやるだけやってふられた、と。






花梨、俺お前のこと―



(…アカン)



花梨には今、棘田っちゅー立派な彼氏がおるやないか。
花梨は今幸せいっぱい花盛りなんや。



そんな花梨に俺のストレス発散とばかりに告白するなんて。


俺のプライドも許さん。

だって好きな女にそんな困らせるだけ困らせて終わるとか!男として終わっとるわ!






気づけば俺はすっかり暗いグラウンドに1人ぽつんと佇んでいる。



…花梨は俺が告白したら困るのだろうか。

何も感じないかもしれない。


いや、花梨の事や。困った顔して目を泳がせて、それから、それから、俺の目をはっきり見て言うんや。


「ごめんなさい」と。



ふられる自分を想像したら少し笑いが漏れた。

それから勝手に目頭が熱くなった。





「アホたれ…」



深く深く息を吐いた。



アホたれ、アホたれ、アホ、アホ、アホ!



そう自分をなじった言葉は広い夜空に吸いこまれて消えた。



誰か俺を。


一発殴れや。





―――――


とりあえず可哀想で悩みまくってるアキレスが書きたくてこうなりました。ノマカプでも片思いはおいしいです。

アキレスなんだかんだで打たれ強いと思います。あと男前。






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