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ハッピーバースデーお兄ちゃん(阿雲誕生日)

5月31日。

「お二人共」お誕生日おめでとうございます!という言葉に歓迎されてクラッカーまみれになったのは「俺」だけだった。



「…悪いな」


本来ならありがとう、と感謝の一言でも言うべきなのだろうが俺の口から出た第一声は謝罪の言葉だった。


今日は俺と阿含の誕生日で、こうして部室で誕生日会らしきことまで開催してくれた部員たち。

一休から俺と阿含に一斉送信された「放課後部室に来て下さいね!」というメールが来た時からなんとなく予感はしていた。

一休たちがこうして祝ってくれるだろう事と、弟が、阿含が来ないだろうという事も。



「ありがとうございます、先輩たちまで…素直に嬉しいです」

カラフルなとんがり帽子を被った部員を見渡して言った。

こんなときにまで床に散らばった紙吹雪を片づけなければ、と思ってしまうのは性格だから仕方ない。



「見ての通り阿含は、来ていないですが」


ぽつりと呟けば、それがじわりと自分の心に染みた。

部員たちに申し訳なくて、阿含に対する怒りと共に一種の寂しさがわいてきた。



「別にいーんすよ!」


想定の範囲内っす!と明るく笑う一休にみんなもにこにこと笑みを浮かべる。

…なんだか今日はみんな余裕があるらしい。

普段なら一休はしょぼくれるし山伏先輩もまったくあいつは、と言葉を漏らすのに。


「そんなことよりほら、ケーキも用意したんだ」

山伏先輩は奥からケーキを出してきて、俺の前に差し出した。

そこには「ハッピーバースデー雲水さん!」とある。達筆な文字の横に歪な「さん」と付け加えられたもの。隣で一休が恥ずかしそうに笑っているから、これは一休が書き加えたものなんだろう。

思わず笑みがこぼれるが、あることに気づく。


「阿含の、分も…別に用意してくださったんですか?」


俺が今持っているケーキに阿含の文字はない。まさか一人一人にケーキを準備してくれるとは。

いつもは二人で一緒にされるから、「俺」だけを祝ってくれていると感じられて、


とりあえず一休の頭をぐしゃりと撫でた。









「おいしいです」


俺のために作ったというケーキは甘さ控えめでとてもうまかった。

みんなに何かされて嬉しく思うたび阿含がいない事が悔やまれる。あいつもいれば、あいつがいれば、いや、今更言っても無駄なことだな。



「どうかしたっすか?」

気持ちが顔に出ていたのか一休にそう聞かれてしまった。



「…いや、あいつは馬鹿だなと思ってな」
「あいつ、って阿含さん?」


ああ、と頷いたとき、後ろでガタッと音がした。

何事かと振り向くと、椅子に縛り付けられている阿含がいた。





「…は、」





事態が理解できずにフォークを持ったまま静止する。

そんな俺を気にすることもなく阿含がガタガタど動いてロープを千切ろうとしている。口にはガムテープを貼られているし一体どうしたというのか。


「あ、ごん?」


なんとかその名を呟くとサングラス越しに睨まれる。ガムテープを剥がせということだろうか。

三重ぐらいに貼られていたガムテープを剥がすと阿含は口汚く騒ぎ立てた。


「っぶは!何すんだカス共!いきなり拘束しやがって殺すぞ!!」



阿含はかなりキレているようで、力ずくでロープを千切った。
すっかり周りの部員たちは苦笑いで静まり返っている。

一体何がどうなってこうなったというのか。

俺が説明を求めるように一休を見れば一休は阿含をチラリと見る。


「あ゛あ゛!?」



一休は阿含の形相にヒィ!と声を上げてからぽつりぽつりと話し出した。


「雲水さんへのサプライズとして、阿含さんを…その、」
「ロープで拘束しやがったんだな一休後で殺す」
「ひぃぃ!いきなりじゃないっすよ!一応ちゃんとケーキも出したしクラッカーも鳴らしたし!」
「雲水はホールなのに俺のはカットしたケーキか!」
「予算が足りなかったんす!!」


一休と阿含がなにやら言い合っているが、とりあえず阿含がここにいるのは部員たちが捕らえたから、ということらしい。


「あのメールの後、阿含さんには一時間早く来るようにメールしたんすよ」
「来たらクラッカーときったねぇ文字付きのちっせぇケーキだった」
「きったねぇとか言うなよ!」


ゴクウが顔を赤くして怒った。その字はゴクウが書いたものだったのか。


「それで…ケーキを食べ終わった阿含さんをロープで椅子に縛って雲水さんが来るまで待ってたんです」

「…なるほど」


そんなことが俺の知らない間にあったわけだな、と頷いた。

阿含はまだふてくされている。


…あれは確実にケーキの大きさを気にしているな…、なんて思うとなんだか阿含が怒っているのが面白おかしく見えてきて、俺はつい笑ってしまう。


くく、と声を殺して笑うと一休はポカンとしてから嬉しそうにニカッと笑った。山伏先輩も阿含をなだめながら嬉しそうに笑っている。

阿含はチッと舌打ちしてからどっかり椅子に座った。そしてケーキを食べるのが先か否か、「良かったな雲子」と呟いた。


幸せ、とはこんなことを言うんだろうなと言えば阿含は「さぁな」と笑った。







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