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あなたの好きなところが目について仕方ない(一雲)
「あー…」
べったりと体に張り付く制服を睨みつけた。
まぁうちの学校の制服はマシなほうか。ワイシャツの学校とか信じらんねぇ。首元暑すぎるだろあれ。
「あっつい、夏にしても暑い」
俺はそう言ってからちょっとしつこいかな、と隣をちろりと見た。
じわりと汗にじませながら俺たちは木陰のベンチに座っている。
陰のおかげで日差しは幾分マシだけれど、それでもまとわりつくような熱気はなくならない。その上湿度が高いもんだからじめじめしているし最悪だ。
けどまぁ俺の隣に座るこの人はそんな環境のなかでも涼しい顔をしているのだが。
「いいじゃないか」
前を見たまま雲水さんはぽつりという。
(うわ)
俺は思わずぱたぱたとあおぐ手を止めた。
雲水さんの横顔には余分なものがない。
まとまりがあるっていうか均整の美しさがある、と思う。
阿含さんがあれだけモテるのだ、雲水さんがモテないわけがない。
そんな雲水さんと木陰で二人っきりという、雲水さんに思いを寄せる女子が聞くと羨むシチュエーションに俺はいる。
「一休は嫌いか?」
こちらを向いてそう尋ねる雲水さんを見れば、もう夏が嫌いだなんて言っていられない。
雲水さんのこれまた無駄のない言葉には不思議な力があって、雲水さんが言うことは全て正しいと思わせるような雰囲気を漂わせている。
ぶんぶんと首を左右に振れば雲水さんはまた「そうか、」とだけ言って目線を前に戻す。
(あ)
ああ、これだ。
雲水さんのあのまっすぐな視線。
あれが好きだ。
あの目で見られると心が跳ねてどきまぎする。
それが他の人を見ているとイライラする。
あれが、まっすぐ前を見ていると、雲水さんの芯の強さっていうか、そういうのを感じる。
*
「…そろそろ授業だな」
「えっ」
一体どれだけの間ぼんやりしていたのだろうか。
雲水さんはゆっくりと立ち上がり日差しに目を細めた。
その一連の流れに俺は惚れ惚れとしながらも慌てて立ち上がった。
それを見てから雲水さんは校舎へ歩き出す。こんな風に雲水さんはいつも部員や周りの人間をさり気なく気遣っている。
「あんな弟」がいたからだろうか、雲水さんにはきっと相当フォローの技術が備わっているのだ。
雲水さんの後ろ姿を少し眺めてから俺も歩き出す。太陽の下に出た途端日陰が恋しくなった。
いや、正しくは雲水さんと2人っきりだった日陰が、だろうか。
「雲水さん」
俺はいつもこの「恋」とはいえない想いを込めて雲水さんを呼ぶ。
雲水さんが振り返るのを待ちわびながら。
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