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夏は部活に勉強に恋に(一モン一)
今日は神龍寺高校との練習試合だった。


女の人絡みは相変わらずだけど練習するようになった、いわゆる努力する天才になった阿含先輩。

その活躍ぶりに驚かされながら、今回は俺たちの負け。

一休先輩にボールを取られたりと、悔しい練習試合で。


(まだまだ強くならなきゃいけねぇ)


そういう思いがムクムクと大きくなった。







その帰り道、俺は一休先輩と歩いていた。





「あ、蝉」



ぽつり、と呟く。

蝉の声はよく聞くがその姿はいまいち見かけない。だから俺は思わず声に出した。


「あ?どこだよ」


一休先輩はまわりの林をキョロキョロと見渡す。
俺たちはじりじりと照りつける太陽のもと、立ち止まった。



「そっちじゃないッス」

相変わらず上を向いて木のほうを探している一休先輩の肩を叩いて地面を指差す。



「下ッスよ」


一休先輩は暑さのせいか、ゆっくりと下に目を動かした。二人とも汗だくだ。



「…ああ、こっちか」



地面には蝉が転がっていた。

一休先輩は蝉をちらりと見て汗を拭く。そして地面にしゃがみこみ、じっと蝉を見つめた。



「蝉だな」「蝉ッスね」


俺もそのとなりに座る。日差しがいっそう強まった気がする。



「死んでるな」


一休先輩はそこらに落ちていた木で蝉をつついた。カラカラに乾いた蝉はコロコロと一休先輩に持て遊ばれている。


「仰向けに死ぬもんなんスね」


蝉は最初からひっくり返っていた。黒い2つの目が空を見つめている。それが太陽スフィンクスとの戦いを思い出させた。
また、じわりと「強くなりたい」、という気持ちが動き出す。



「木から落ちたからじゃねぇか」


「こう、ポロッと」と言いながら一休先輩は立ち上がり、横目で蝉を見てから再び歩き出した。俺もその後を追う。






一休先輩の歩く速度は微妙に速い。

身長の差のせいか俺には速い。だから俺は少し早歩きでついていく。

一休先輩はそのことに気づいているのかいないのか、俺のためにゆっくり歩いてくれたりしない。


(…優しくない)


優しい一休先輩はそれもそれで恐ろしいけど。




「一休先輩、暑い」
「俺は暑くない」

「…先輩歩くの速いッス」



そう言ってみれば、一休先輩はしばらくの沈黙のあとに「ちっ」と小さく舌打ちをしてからゆっくりと歩き出した。

そこで俺も隣に並ぶ。


今度は俺が普通に歩いても2人の隙間はあかない。


(ゆっくり歩いてくれてんだ)


一休先輩の「恋人」らしい行動に俺が一人にやつく。

それを見た先輩は俺の頭に容赦なくチョップをかました。


(いや、やっぱり優しくない!)


じんじん痛む頭を撫でながらそう思った。





ミーンミーン、と蝉の声が360度、あらゆる方向から聞こえてくる。

その声を聞くと気温が上がったような気がする。汗は止まらない。


一休先輩は「鬼暑いな…」とさっきとは打って変わった発言をした。


(俺は暑くないとか言ってたくせに…)


一休先輩の矛盾した発言にむっとしつつも、流石にこの暑さだ。
一休先輩もバテるんだろうと無理やり納得させた。



「コンビニ、入るッスか?」


俺の提案に一休先輩はコクンと小さく頷いた。






近くにあったコンビニに入ると一気に流れ出す冷気に思わず顔がほころんだ。

俺は迷わずアイス売り場に直行。アイスを物色し始める。


少ししてからスポドリを手にした一休先輩がアイスに夢中な俺の後ろからひょっこり顔を出した。


「ゴリゴリ君か、ペピコか…」


2つで悩む俺の手から、一休先輩はいきなりゴリゴリ君を奪いとり、元の場所に戻した。


「ペピコにしろ。そんで俺に半分よこせ」
「…半分お金出して下さいよ」
「嫌だよ、変わりにアクエリオスやるから」



まるで等価交換、交渉成立だと言うように一休先輩はアクエリオス片手にレジに向かった。


(…勝手だ)


アクエリオスを半分以上飲んでやろうと決意した俺は溜め息をひとつついて、一休先輩の隣のレジに並んだ。






「ありがとうございましたー」


ビニール袋をさげて自動ドアを通る。



「うわ、温度差鬼やべぇ」


突然体にまとわりつく熱気が、先ほどまでの寒いほどの冷気を奪っていく。

コンビニから出て数秒後には汗が流れ始めていた。



「やっぱコンビニは涼しいんスね」


俺の言葉に一休先輩はアクエリオスを飲みながら頷いた。


そして「ペピコ寄越せ」とアクエリオスを差し出す一休先輩。


「アクエリオスもうほとんどないじゃないっすか!」
「馬鹿、半分あるだろ」
「半分の半分ぐらいッスよこれ!」
「いいからペピコ寄越せ!」


そんな感じでギャーギャー言いながらアクエリオスとペピコを奪い合い、食べていると、足元の蝉に気づいた。



「あ、また蝉だ」



俺は一休先輩の足元のからりと乾いた蝉を見る。一休先輩は興味なさげにペピコを食べている。



「そろそろ終わりどきなんスかね」
「まだまだだろ」



一休先輩は食べ終わったペピコをビニール袋に入れて俺に投げた。
それを反射的に掴むと一休先輩は「流石キャッチMAX。ついでに捨ててくれ」と言った。


捨てるのが面倒くさいんだ、と良く言えば素直な一休先輩はまた歩き出す。


一休先輩はこういうとこが年上くさい。先輩の特権をフル活用してくるあたりだ。


仕方なくビニール袋を鞄に入れていると、一休先輩はふと思い立ったように顔を上げた。



「モン太、お前課題は?」
「まだッス」
「…あと一週間しか夏休みねぇんだぞ」



一休先輩は呆れたように俺を見た。なにげにその表情が好きだったりする俺。

試合のときの真剣な顔も好きだけど、ふとしたときの気のぬけるような顔も好きだ。



「ちょっとはやってるッスよ」
「俺は終わってる」



…嘘だ。



「あ、信じてねぇな?」

思っていたのが顔に出たのか。一休先輩はけらけら笑った。


「先輩今日笑いの沸点低いッスね」


いつもは爆笑する俺を一休先輩が鼻で笑うことが多いのだが。


「あ?いいんだよ、鬼楽しいから」


一休先輩がそう言う横顔は太陽の光が邪魔してよく見えなかったけど、とりあえず微笑んでたと思う。

まぁ、その表情に胸がどきんと跳ねたのは紛れもない事実で。



「…俺も楽しいッスよ」


先輩とこうしてるのが、とは恥ずかしくて口には出せないけど。



「俺、ほんと好きっす」
「ああ、アメフトが」


…アメフトは好きだ、けど今言いたいのはそうじゃなくて。とりあえずこの思いが届けばいいなと思いながら俺は好きですと繰り返す。



「好きッス!」

「あ、違ったな…一休先輩のことがだったか」



にやり、と一休先輩は笑った。



…さっきから手汗ハンパねぇし顔は熱いけど、その笑みにさらに体が熱くなる。



そして一休先輩はしてやったり顔で俺の頬にキスをした。


「…ぅわ!」
「うわって何だようわって」




(き、き気温上がったんすかね、マジあちぃ)
(お前顔赤いぞ夏風邪か?)
(…一休先輩!)


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これは昨年の夏に書き始めたものです。季節はずれにもほどがありますね。

一休とモン太は普通に仲のいい先輩後輩な感じも好きです^^


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あきゅろす。
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