文章
夜景にプレゼントにおいしい料理に素敵な彼に(十黒)
夜七時。夕食時だ。
いつもなら部活帰りにコンビニで漫画を立ち読みしているぐらいの時間帯…になぜか俺は優雅なクラシックが流れる小洒落た店で夜景を眺めながら飯を食おうとしているのだろうか。
「…なぁ」
「あ?」
俺が小さく声をかけると、向かい側に座っている十文字が顔をこちらに向けた。
「こういうとこって普通高校生が来るもんか?」
俺がまわりをちらちら見ながら声を潜めて聞くと、十文字は何だそんなことかとうっすら微笑んだ。
いや、その微笑といつもよりきっちりした服はこの店に似合ってるんだけどよ。
…なんかちがくね?
「今日は黒木の誕生日だろ、誕生日ぐらいぱーっといこうぜ」
「…そ、ういうもんか…?」
「おうおう。遠慮すんな」
遠慮がちに頷けば十文字は満足そうに笑った。
そうはいってもこんな場所、来たこともないし来ることがあるだろうとも思っていなかったから正直緊張してる。
前を向けば幸せそうな十文字と目があうし、店内を見たら余計緊張するし…だから俺はおとなしく夜景を眺めるしかなかった。
きらきらと輝く町。
一体どれだけの電力を消費しているんだろうか、と普段なら絶対考えないことを考えるほど俺の頭は混乱していた。
いや、確かに今日は俺の誕生日よ?
でもよ、こんなとこつれてこられるとは思わねぇじゃん。
せいぜい、俺んちにお菓子でも持ち寄ってだべって終わり、とかだと思うだろ、普通。
『ちょっと出かけようぜ』
そう十文字が言うから、ちょっと出かけんだろうなと思っていつもみたいなラッフーな格好でほいほい付いてきたら、これだ。
この店で俺の格好が浮いているような気がして仕方がない。
「…黒木?」
はっとして顔を上げると十文字が心配そうにこちらを見ていた。
「楽しくないか?」
そう聞かれるだろうと、不安そうな目をみて思った。そしたら案の定聞かれた。
楽しくない、そう言えば十文字はひどく傷つくだろう。
(そんで悪かったな、って謝るぜこいつ)
俺はちょっと呆れていた。
どうせこの店だって数ヶ月前から予約してんだろ。どうやって俺を連れ出すかも考えてたんだろう。
トガにも相談したんだろうな。その鞄の中には俺へのプレゼントが入ってんだろ。
分かってる。
分かってるよ。
お前がどれだけ俺を大切にしてくれてるか。
ほんとお前、いいやつ。
俺に勿体無いぐらいだよ。
「楽しくない、わけない…だろ」
そう言うと十文字はほっとしたように息をついた。
「いや、正しくはすげー嬉しい。嬉しいけど、楽しいとはまたちげぇかな」
「…迷惑、だったか」
「あー違う違う。まぁ聞けよ十文字」
そういったときに注文した料理がきた。
なんだこれ、超おしゃれで超うまそう。
「…ちょ、先食べていいか?」
そう聞くと十文字はたりめーだ、と笑った。
マナー違反とかあるのかも知れないが、そんな教養俺にはないもんで、とりあえずうまいうまいと言いながら食べた。
たまに前を見ればきれいに食べる十文字が目に入った。
「さて、うまかった」
「おう」
それを合図にしたように、十文字も俺もナイフを置いた。
「俺さ、もっとこう…しょぼい、というか庶民派な誕生日をイメージしてたんだよな。こうやってこんな綺麗なとこにつれてきてもらって嬉しいし、なんかお前かっこいいし、料理おいしいし。でもちょっと緊張すんだよ…慣れねーから。息がつまるってほどではないけど」
そういい終わると十文字はじっと考え込んだように黙ってしまった。
きっとプレゼントも仰々しいのを選んでくれたんだろう。それを渡すか渡すまいか迷っているに違いない。
「…それは、悪かった。来年はそこらへんも考える」
十文字は頭をかきながらそう言った。
来年、という言葉に胸があったかくなったのは…まぁ、秘密だ。
真面目な顔してそう言う十文字が愛しくてたまらなかった。
「これ、いらねぇかもしれないけど、受け取ってくれ」
そう言って渡されたのはかっちょいいバングルだった。
ほー…と感嘆の声をもらしながらつやつやと光る黒いエナメルのバングルを着けてみる。
程よい重さで、デザインも俺好みだ。
「いいじゃんか、ありがたくもらう」
「そうか、よかった」
そう微笑む十文字が夜景の効果とかもあって素晴らしくイケメンだった。
つーかこのシチェーション、ドラマみたいだな。全世界の女の子が憧れる展開だろこれ。
「…ありがとう、十文字」
幸せものだな俺は、と十文字を見て言うと、十文字は一瞬目を見開いてからまた幸せそうに笑うのだった。
==========
とりあえずらっぶらぶな二人が書きたくて書きました。
普段は黒木のほうが尽くしがちだけど、こういう特別な日に十文字は力入れまくってたらいいと思いました。
黒木は三人の一番おしゃれ、だと思います。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!