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照れ隠しはテンガロンハットで(キッド誕生日)
11月に入って少し肌寒い。まぁアメフトをしていればすぐに暖かくなるから関係ないのだが。

そんな部活前のストレッチのとき、前から気になっていたことを隣で柔軟している陸に尋ねてみた。

「…どうかしたの?」

そう何でもないように尋ねると、陸はあからさまに動きを止めた。
陸はポーカーフェイスを保ったつもりかもしれないが、モロにバレバレだった。


「いや、特にないですよ」

あきらかに怪しい、何かを隠しているであろう陸はそう言ってストレッチを再開した。

「何でもない、ねぇ…」

独り言のように呟いて俺もストレッチを再開した。ちらりとテンガロンハットの下から横を盗み見れば、少し楽しそうに頬を緩める陸が見えた。


(ま、陸が楽しいならいい、か…)


そう思うと俺もつられて少し笑った。それを隠すようにテンガロンハットを押さえつければ、こちらを見ていた鉄馬と目があった。




その部活の帰り道、並んで歩く鉄馬に聞いてみた。


「鉄馬、なんかあるでしょ」

じと目で見れば、鉄馬はちょっと考えるように黙ってから口を開いた。


「…さぁな」

鉄馬はこちらをちらりと見て、そうとだけ言った。その言葉は少しだけ面白がっているように聞こえた。


「鉄馬までグルなのかい?…一体何を目論んでるのやら」

そう溜め息をつけばまた、鉄馬が意外そうにこちらを見るのだった。





そろそろ試験が近づいている。中間試験はそこそこの出来だったが、期末はどうなる事やら。
俺は残念ながら天才ではないのでそれなりに勉強しなくてはそれなりの点数がとれない。

(復習始めないとそろそろやばいな)

部活が終了し、部室へと歩きながらそんな事を考える。

「お疲れ様です!」

よく通る声に振り向けば、後ろから陸が駆け寄ってきていた。

陸はふとした時に大人びた表情を見せるが、こうやって後ろをついてきてくるのが後輩らしくて可愛い、と思う。

「おつかれ、陸」

軽く頭を数回撫でれば、子供扱いしないで下さい、と眉を下げた。ま、いいですけど、と笑顔を付け足して。

さらに陸はその笑顔のまま部室へと急いだ。何故か俺の腕を掴んだまま。ぐん、と引っ張られて前のめりになりながらもなんとか転けないように踏ん張る。

「ちょっと陸、」


待ちなさいなと言う前に部室の扉が勢いよく開かれた。暗闇の中に部室の明るい光が漏れ、言いかけた言葉は驚きと共に消えた。


「お誕生日おめでとうございます!キッドさん!」

陸の声を合図にいつの間にか部室に集合していた部員から口々に祝いの言葉が降り注いだ。

ゆっくりと部室に足を踏み入れると、そこにはいつ行われたのか立派に飾り付けがされていた。派手な事が好きな監督の計らいかもしれない。

壁に掛けられた布にはおめでとうキッドさん、とでかでかと書かれており、キッド、とあることに何故か安心している自分がいた。


「おめでとう、」
「鉄馬…」


声にゆっくり振り向けばあの帰り道で見せた笑みと同じ顔で鉄馬が立っていた。

「…教えてくれても良かったじゃない」

ちょっと拗ねたような言い方になってしまったが、普段に比べて顔は緩みっぱなしだったと思う。

「…気づいているかと」
「試験前にまさかこんな嬉しい事があるとは思わないでしょ」
「良い仲間に、恵まれたな」


にこ、とまでは行かないが微かに目を細めた鉄馬。

うん、ほんとにね。

明るく輝いている部室を見渡して言った。





しばらくすると上機嫌の監督が鉄砲を鳴らし始め、陸が嬉しそうにケーキを出してきて、それをみんなで食べて。


「…これが幸せっていうのかな」


ケーキを食べながらぼそりと呟く。

「キッド先輩がそう思うならそうですよ」

陸は俺の隣に座って同じようにケーキを食べながら言った。


「陸は幸せ?」
「勿論です!」


キッド先輩の誕生日をお祝いできて。
なんて可愛らしいことを言ってくれる陸に、少し笑いかけてから、テンガロンハットを深く被り直した。

深く、深く。






(やべ、ケーキ落とした)
(あらら)




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