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文章
散らかった散らばった二人の歴史(黒戸)

「おじゃましまーっす」


8月の蒸し暑い日に、俺はいつものようにトガの部屋に足を踏み入れた。


「お茶いれてくるわ」
「おう、サンキュ!」


鞄だけ投げて、一階に降りていくトガを見送ってから俺はいつもの定位置に座った。


…汚い。


いつもの部屋もお世辞にも綺麗とは言えないがこれは汚すぎる。俺がいつもの定位置に座れたのが不思議なくらいだ。
今思うとそこだけぽっかりと綺麗だったような気がしなくもない。


(トガ、か?)


いや、トガがそこまでわざわざ考えるとは思えない。きっとなにかの偶然だろうと思い、ボーっとしていると、とんとん、と階段を上ってくる音が聞こえた。意識が現実に引き戻される。



「あ、おかえり」
「おぅただいま、いま散らかってんだ」



夏なのに出しっぱなしにされたコタツの上に冷えたお茶が置かれる。飲むと、我が家のとはまた別の飲み慣れた味がした。


「掃除中なのか?」
「ああ、そろそろ漫画もまた溜まってきたし整理しようと思ってな」


トガは足元のごちゃごちゃしたものを足でよけて座った。

「お前って毎回そうだよなー」

そう呆れたように言えばトガは何故か少し嬉しそうにした、気がする。

(…やっぱサングラスはどんな顔してんのか分かねぇな)

自分の部屋でくらい外せばいいのにと思う。


「こまめに掃除すりゃいいのに」
「お前に言われたかない」
「十文字を見習えよ」
「お前もな」


…確かに俺の部屋は汚い。十文字に言われるなら納得できるが俺と同レベル、いや、それ以下のトガには言われたくない。
「るっせー」、と軽く足で蹴ればひょいとよけられた。





「掃除するから適当に遊んでてくれ」


ぽいと投げられたのはプレステのコントローラー。申し訳程度に置かれた小さなテレビを見れば周りにはカセットが転がっていた。

流石にこの汚い部屋で「掃除するな」とは言えないので俺は珍しくトガの言葉に従ってカセットを物色した。
しかし見れども見れども全てやったことのあるものばかり。トガの家のゲームは遊びにくるたびにしていたから、とうとうネタ切れのようだ。
今度から自分のゲームを持参しようと思いながら俺はありもしない未知のカセット探しを止め、ベッドにもたれた。


(…ん?)


そのときベッドの下からちらりとはみ出た紙。山ほど積まれたそれはどうやらトガの自作漫画の原稿のようだ。かなりの量なのが少し微笑ましい。

(ほんっと漫画好きだなー…)

そんなことを思いながらぱらぱらと見ていると、少年漫画らしくない絵柄のものが目に入る。どちらかというと少女漫画のような目がでかいやつだ。トガにしては珍しい。

「こんなのも書くんだな…」


ちょっと不思議に思ってそのぶんだけ抜き出して他のを適当にベッドの下に押し込む。そこで俺がゴソゴソしているのに気づいたトガが「勝手に漁んなよ」と振り返った。


「…っ!」


トガは俺の手にある原稿を見るなり真顔でずかすがと近づいてきた。


「うわ、何だよ」
「漁んなっつったろ!」

珍しく慌ただしいトガは原稿を奪い返そうと手を伸ばしてきた。


「いいじゃんかよ別に!」


俺も負けじと逃げる。


「今までだって描いた漫画見せてくれた、だろっ!」
「黒木!」
「なんだよ!」
「返せ!」
「ムリー!」
「ふざけるなよ!」


そんな会話をしながら狭い部屋を走り回った。トガと机を挟んで対角線上に向かい合い、お互い様子を探る。
トガは原稿を睨んでいた。

…そこまでして見られたくないなんてどれだけの物なのか。


(…見てしまえー)


そう思ってこの距離なら捕まえられまいと原稿に目を通す。

「…何だ、いつもと同じじゃんか」

俺はてっきりお色気シーンでもあるのかと思っていたから拍子抜けして言った。


「…いや、」


いや、待てよ。なんか、違う。

やたらと目がキラキラしてるのも変なんだが、このキャラを見たことがある。というか主人公トガじゃねーのかこれ。


(金髪にサングラス…)

はっはぁーん…トガだなこれ。なんだ、これがバレたくなかったのか。確かにちょっと恥ずかしいかもしれない。いわゆる黒歴史という奴。けれどこういうのは誰にでもあるものだ。

普段見れないトガをもっと見たかったので原稿自体にもう興味はないけれどぱらぱらと読み進める。


(ん…?)


あるページで手が止まる。


「なんかこれ」
「返せ」

言葉を発そうとするのを遮るように乱暴に奪われた原稿はトガの手によって引き出しに詰め込まれた。ご丁寧に鍵までかけて。
面白くない、が、さっき見たヒロインの姿を思い出してニヤリと笑う。


「…トガってば大胆ー」
「…見たな」
「見たよばっちし」

笑って言えばトガはやっぱりかと嫌そうに顔を歪めた。そのまま床に座り込んで、立ったままの俺をサングラスの隙間から伺うように見る。その仕草がちょっと可愛い。


「感想は」


俺はうーんと考えるふりをしてから、「俺、とトガ、みたいな?」と答えた。それを聞いたトガは深く深く溜め息をついた。心なしか顔が赤い気がする。


「…黒歴史は早く捨てとくべきだったな」
「だから部屋掃除しろって言ってんだよ」


ざまぁみろ、とどや顔で言ってみれば、トガはゼンショします、とサングラスを押し上げた。


「まぁそんな乙女志向なトガもいいと思うよ、俺好きよ」
「…どうも」


さて、俺たちの歴史だらけのこの部屋をどう片付けていこうか。





========
最初は戸黒のつもりでしたが書いていたらいつの間にか黒戸になっていました。おかしいな。

とりあえず黒木はトガと遊びすぎてて色々馴染みすぎてたらいいです。トガの家の家具の配置とか完璧だといいです。

「あーあれどこだったか」
「あれならあそこにあるだろ」
「あそこー?あーあったあった」


みたいな感じの…
あとトガの黒歴史はいい感じに恥ずかしいといいです。

黒木の部屋は他人から見たら無秩序で散らかっていて、でも自分では何がどこにあるか把握してるタイプだと思ってます。



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あきゅろす。
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