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文章
「息子さんを僕に下さい!」(モン一モン)
俺は布団にくるまりながら寝ていると、ゆさゆさと手荒く揺さぶられるのを感じた。どうやら俺を起こしにきたようだ。

(うるさい)

そう単純に思った俺は体をひねって布団に逃げ込む。するとその「誰か」は強引に布団剥ぎ取った。

(眠らせてくれー…)

大体今日は日曜日で部活も休みだ。昼まで寝たっていいくらいなのに。こんな手荒な起こされ方は久しぶりだった。

「モン太、起きろ」
「む…無理」

再び布団にもぐりこむが声の主は容赦なくまた布団をはいだ。

「モン太!」
「無理だって…」
「起きろよ」
「嫌、」
「もう10時だぞ」
「まだ昼じゃない…」
「人間は朝に起きるもんだ」
「休日は、別、」
「屁理屈だろ」

このいつまでも続くかと思われた言い争いに決着をつけたのは相手の声。
(なんか、ちげぇ…)

それは母親とも父親とも違う声に聞こえた。

「びっくりしたって知らねぇぞ」

(なんのことだ?)

そう思いながらもとりあえず「うん」と頷いておく。とにかく早く会話を終わらせて寝たかったのだ。
今日の母は声の調子が悪い、と自己解決して足元の布団を手繰り寄せる。するとまた布団を剥がそうとしてくるから耐えかねた俺は怒鳴るつもりでがばりと起き上がった。

「なんだよ!今日は部活ないって昨日言っただ…、ろ?」


初めて相手の顔を見た俺は、目を丸くした。


「だから、言っただろ」

寝起きに顔面パンチをくらったぐらい目が覚めた俺に、一休先輩はそう言った。





びっくりして声も出ないとはまさにこの事だ。俺はいつもより多めにまばたきをした。聞きたい事は山のようにあったが、ひとまず一番不思議な事から聞いてみる。

「えーと…どうして俺んちにいるんすか」
「俺は今日部活がないからだ」

一休先輩はさも当たり前かのようにあぐらをかきつつ言った。俺は布団からのっそりと出てその向かい側にパジャマ姿で同じように座る。

「いや、理由になってませんから」
「俺だってそんなの分かってるよ」


(んな…!)

今日の一休先輩は些かひねくれているらしい。俺の質問にまともに答えようとしない。
じゃあどうして、と再び聞いた俺に、一休先輩は予想外の答えを言い放った。

「お前の母さんから逃げて来た」


(母さん…?)

下の階でお菓子でも食べながら寝転びテレビを見ているであろう母親が頭に浮かぶ。

「…何か言ってましたか」
「うちの子をよろしく!迷惑ばっかかけると思うけど一休君がいるなら大丈夫ねエトセトラだ」
「あんのおせっかい…」

頭の中の母親は楽しそうににやにやと笑っている。息子の色恋沙汰に首を突っ込みたがるの分かるが、止めて欲しい。ましてやこんなややこしい恋愛事情に。

(一休先輩と付き合ってんだもんな…)

俺は目の前にいる一休先輩を目を細めて見た。一休先輩は紛れもない男。そして俺も男だ。

(いや、性別は関係ない。関係ない)

以前悩んだ時に恋愛に性別は関係ないと割り切ったばかりだ。好きなものは好き、それでいい。
とりあえず「母がすいません」と謝ると一休先輩は「いや、いいんだ」少し頬を染めた。

(…どうして赤くなる)

一体今のどこに恥ずかしがる要因があったのか。俺には分からない。

「いや、その、大丈夫だ」

顔は赤いままにこやかに笑っている一休先輩。いや、正しくはにやつくのを耐えているのかもしれない。

「…えらく歯切れが悪いっすね」
じっと疑わしいと言うように見れば、一休先輩は弁解するように口を開いた。

「別に、ちょっと嬉しかっただけだ」


(あー…さては)

一休先輩は恥ずかしさを隠すように笑った。そんな先輩を見て俺は呆れ気味にゆっくりと息を吐く。

「…俺の母親そんなに美人じゃないですけどね」

どうせ一休先輩のことだ。俺の母親相手に反応したに違いない。女の子に免疫がないと言っても、まさか熟女にまで反応するとは。それを聞いた一休先輩は目を見開いてから、ゆっくりと眉間にシワを寄せて深く深く溜め息をついた。


「…察せよ!」
「え…何を…?」
「だー!だから!」


一休先輩はじれったそうに頭をがしがしかいた。やっぱり今日の一休先輩はどこか変だ。
そんなことを考える俺に、一休先輩は意を決したように言った。


「俺は、俺とお前の関係が母親公認みたいだから安心したんだよ!」


顔を赤くする一休先輩。いつもなら俺も釣られるようにして赤くなっていただろうが、何故だか今日の俺は少しばかり冷静だ。

「心配してたんすか」
「そりゃ…ちっとはな」

本当にちょっとだから、と言う一休先輩は見栄を張りたい年頃に違いない。そんな一休先輩が急に可愛く見えてきて、さらに真面目な時とのギャップやらが押し寄せて、俺の胸は高鳴った。

(やっぱ一休先輩が好きだな、俺は)


「意外に心配性なんすね」

そう言う俺を一休先輩はむっとして見た。


「お前は心配しないのかよ?」

(心配…勿論した、けど)

俺は少し考えてから、普段は恥ずかしくて言えないような事を口にしてみた。


「別に認められなくても好きなものは好きなんで、はい」
「ななな…!」
「顔赤いっすよ」
「お前のせいだろお前の!馬鹿モン太!」

いつもより赤い先輩にいつもより強い力でチョップ連打され、頭がズキズキと痛んだ。これも愛の痛みだ仕方ないとかアホらしいことを考えてみる。

「えー俺のせいっすか!?」
「そうだ!お前がそそんなそんなこと言うから、だ!」


そんな、鬼はっずかしーこと!と一休先輩は真っ赤な顔で告げた。照れ屋、なのだろうか。これが普段強気な一休先輩の可愛い一面だと俺は思ってたりいなかったり。


「だってほんとなんですもん」

ね、と確認するように先輩を見上げる。

「な…俺だってな!」

小生意気な俺の態度に一休先輩は何を思ったのか立ち上がった。そんなに意気込んで何を言ってくれるのだろうかと期待してみる。

(俺もお前が、モン太好きだ、とかか?)

…いやいや、ないだろ。
有り得ない妄想に自分でつっこんでから一休先輩をじっと見る。

「…俺も、」
「俺も?」
「お」
「お?」


「お前と駆け落ちしたっていいぐらいに好きだからな!」



…ああ、俺もです。

数秒遅れて座ったまま一休先輩に笑みを向ければ、一休先輩は当たり前だ、と小さく答えた。その耳はまた、朱に染まっていたけれど。




(駆け落ちは駄目だからね)
(うおっ…母ちゃんいつの間に)
(…はい、お母さん)



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…書きたかったもの
・布団を奪い合う二人
・男前モン太
・地味なところで心配性な一休

なぜか二人とも結婚を前提にお付き合いしている。

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