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20110129







軌跡は光のようでもあり、風のようでもあり、幼い身に触れる手のぬくもりの、ようでもある。
何れも明確明瞭なものではない。酷く曖昧であり、不規則なもの。
そうした軌跡で、散ってゆく。











ひらりと舞い散る様は桜に似て、非なるもの。
見上げた色の塊に、眼を細めるのも同じではある、が。
唯々淡い塊である桜のそれより、眼前広がるこの様は強く鮮やかな塊でありはっきり眩く、映るように思う。
姿形の差、だけでなく。
桜の姿を浮かべつつ、鮮やかに色付く葉塊を見上げている。
時折、吐息のような間で軌跡を描いて、散ってゆく。
はらりはらりと、絶え間無く舞う花欠片とは、違う。
一葉一葉、まさに思い詰めた息を吐く、ように散って、ゆく。
比べるつもりもなかったが、気付けば対比させている。桜の淡い色彩は、流石に春の始まりを告げるものだと、しみじみ想う。
賑やかとまでは言えぬでも、人の気をそぞろにさせる。
あれも静止したような花の塊ではあるが、確かに目覚めを呼ぶ花であるということか。
決して、静止したままではない。
動き始めを、示唆するものだ。
無論、この鮮やかな紅葉も静止している訳ではない。
そう、見えるだけだ。
いずれ散り、残るのは細くもあり太くもある枝振りだけだ。

けれど。

まさに、時が止まったようだった。
幾重にも重なる小振りの葉は、確かに微風に揺らいではいる。
その極々僅かな動きは錯覚のようでもあり、瞬きに紛れてしまうようでもある。
決して止まる事など、有りはしない。理解っている。
理解って、いるけれど。

見事な紅葉。黄金にも似た色彩。
赤紅、銀朱、紅。
山吹、金糸雀、黄檗、黄金。
理解っていても、時が止まったように見える。
人の気を、静かに諌め凪させる、色枯れる季節の訪れ。
その前に広げられる、瞬きが如き刹那の鮮やかさ。
息を潜め身を縮め、唯力を熱を来たるべき開花の為に蓄える季節、寸前に染まる色彩なのだと、故の鮮やかさなのだと。
思い、知る。

傍らの坂本がふと腰を折り、足元に広がる色彩から紅の葉を、摘み上げた。
小さな葉を、くるりと回す。

「綺麗じゃの」

赤紅、銀朱、紅。
山吹、金糸雀、黄檗、黄金。
足元をも染める其処から拾われた小さな葉は、褪せる日の訪れなど浮かばせぬような、そんな鮮やかな色をしている。
唯美しいと、思う色を。

「集めてみるか」
「餓鬼じゃあるめえし、どうする気だ」

呆れた声で返すと、再び紅の色がくるりと回った。
褪せる事も滲む事もないような、鮮やかな色が坂本の指先で、揺れる。
静止した、色だ。

「落ち葉焚きにゃあ、勿体ないき。そうじゃなあ」

一瞥空に呉れてから、坂本は言葉を終える前に高杉の手を取り、手の平に小さな紅を落とした。
手の平にあってさえ、眩いばかりの紅に。
眼を、細めた。

「どうしたい?」
「……丸投げか?」

今度は眼差しから呆れてやったが、受ける坂本は楽しげに笑うだけだ。
莫迦莫迦しいと眉を寄せ、ふと。
紅の葉を、陽に翳した。
赤紅、銀朱、紅と。
山吹、金糸雀、黄檗、黄金。
広がるそれらの色が、小さな葉越しに紅と重なる。染まりはしない。重なる、だけだ。
瞬きし、紅の視界に坂本を収める。
静止した色の中、眼が合った。
風が過ぎる。
良くも悪くもあの淡い色彩、かの桜は人を惑わす。単一の、あの桜こそが。
けれどこの、眩いばかりに鮮やかな色彩は、元の木々から多種であり、多様に渡って染まるが故か。


唯々静かで、在り続ける。


小さな紅越しの、その眩さに細めた眼を、閉じる。
残存する紅も、その彼方の色彩も笑う男も、閉じ込んだ。
それらは、こんなにも静かに高杉の中に。
散り、積もる。

「…………仕舞っといたら、どうだ?」

ゆっくり開いた視界から、紅を外す。今度は高杉の指先で、小さな葉は揺れた。
一葉、坂本の背後で散ったのは黄金。
その軌跡は風のようでもあり、幼い身に触れる手のぬくもりのようでもあり。
細く差し込む、光のようでもある。
そうした軌跡で、散ってゆく。
散って、重なり、満ちてゆく。
唯々静かに、鮮やかに。

「どうするか、思い浮かぶまでな」
「おんしも先送りぜよ」

声上げて笑った坂本に、肩を竦めた。
一葉一葉、不規則な軌跡でゆっくりと、散ってゆく視界。
それは沈思した想いを、吐き出すようでさえ。
坂本が、鮮やかな色彩を仰ぐ。

「そう、するか」

すべてを集める訳ではない。
唯、この光のようでもあり風のようでもあり、幼い身に触れる手のぬくもりのようでもあり、沈思した想いを吐き出す、ようにすら映る。
唯々静かに散り、重なり世に満ち広がる鮮やかな、色彩ならば。
色枯れた季節の中、取り出せるように仕舞っておいたなら。
そうしてその日、唯色を重ねてまた、その姿と見えたなら。
そうしたら、きっと。





必ず訪れる、春の蠢きに惑わされは、しないだろう。



























あきゅろす。
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