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あめ・ふる・ふる

まさか雨になるとは思ってもみなかった。

天候のことではない。いや、細かくいえばもちろん天候のことなんだけれど、文字通り、文章通りの意味である。
私が世界から失われてから以来約半年、やっと転生の話が回ってきたと思ったら、それが雨だったのだ。 転生先はいきものばかりではないということはうわさに聞いてはいたけれど、まさかの気象である。
驚いて周りのみんなに喋りまくったら、右に倣ってさもありなんという反応だった。どうもそんなに珍しいことでもないらしい。

そんなわけで、私は何事もなく「雨」をしている。しかも今日は、日曜日の午後の雨だ。


日曜日の午後の雨は、たいがいの人間に疎まれる傾向にある。日曜日が休日という人は多いから、せっかくの休みに雨だとなんにもできない、ということなのだ。
気持ちはよく分かるけれど、それでも降らなきゃならないのが雨というものだ。林野の植物や畑の野菜果物はとても喜んでいるみたいなので、とりあえずはよしとしておきたい。
でも私は元人間なので、できることなら、なるべく人間に喜んでもらえたらいいんだけどな、という気持ちがあったりもするのだ。

それは心の端っこに、いや、今では雨粒のひとつとして、グレイの雨雲の切れ端ににじむ。


そしてその水滴は、日曜日の午後を落下して、例えば誰かの頬に落ちる。



女の子が、落ちてきた水滴を手でぬぐいながら薄暗い空を見上げる。母親と喧嘩をして家を飛び出してきたから、ハンカチも傘も持っていない。
あたりを見ると、天気予報を信じた人々が、予報に倣って持ってきた折り畳みの傘を開いている。テレビなんて見る気持ちではなかった彼女は、そんな情報なんて知らない。 知る由もない。

どちらからということもなく、どちらが正しいということもなく、どちらが悪いということもない喧嘩だった。 そんなことは、家を後ろに後ろに走っているうちに、もう気が付いていたことだった。


水滴の量を増やす雨に、女の子の足が、右へ進んで、戻り、前へ進んで、また戻る。
少しだけ考えてから、とうとう後ろに歩き出す。走ってきた道を、家への道のりを、戻る。
いよいよ降り出した雨が、休日に集うさまざまな足跡を洗い流していく。


女の子はこれから知ることになるのだけれど、家へ帰る途中の曲がり角で、傘を持った母親が待っている。
雨の私には、遠くの景色が見渡せるのだ。
こういうことがあると、日曜日の雨もやってみるもんだな、と思う。



気が付けば、ずっと遠くで雲がちぎれている。そこから覗くのは薄青の空だ。
日曜日の午後の雨は、きっと長くは続かない。





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あきゅろす。
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