短編
純粋狂(♀アレ/+ライル)
この女はイカれてる。
「ロックオン、あいしてます、」
狂ってる。
出会いは運命的でも何でもないただ街中ですれ違っただけ、その時突然腕を掴まれた。
見知らぬ女、
銀色の瞳と長い前髪が特徴な女は俺を見て一言、
「やっと見つけた…!」
「…?」
「ロックオン、僕探したんだよ、今まで何処に居たの、何で連絡くれなかったの…」
「は?え、いや、なに?誰?」
「僕だよ!アレルヤ!わからないの!?」
「…人違いだ、」
「そんなことない!あなたはロックオン・ストラトス!僕の恋人…ロックオン!」
ついには涙まで零し始め抱き着いてきたこの女にわけがわからず俺は暫く立ち尽くしていた。
こんな街中では人の視線も痛い、泣きじゃくる女を宥めとりあえず落ち着いて話せる店の中へと入った。
女が泣き止んだところでようやくまともに話が出来る。
聞くと俺は女の死んだ恋人にうりふたつらしい。
「最初に言ったが人違いだよ、」
「そんな!こんなに似てるのに…声だって、」
「んなこと言われても…俺はライル・ディランディだ、つか死んだんだろ?恋人、」
「…」
「えーと、アレルヤ?だっけ?送ってやるから帰った方が、」
「…こんなに、似てるのに…ロックオンじゃ、ないなんて、」
また涙を零す。
そんな目で見つめられても困るんだよ、ああめんどくさい、
もう関わりたくなかった俺はとっとと女を駅まで送りその場を去った。
世の中には自分と同じ顔の奴が何人かいるというが本当らしい。
恋人を失ったのは気の毒にも思うが俺を恋人と重ねられては困る。
もう会うこともないだろうが、
「…おいおい、」
俺の考えは甘すぎたらしい。
数日後の夜、突然の来訪者に俺はぞっとした。
「ロックオン、こんばんは、開けてください、アレルヤです、」
「まじかよおい…」
ぐるぐると混乱しだす俺の頭。
何故、何故だ、何故この女が?
家どころか住所も教えた覚えはない、名前しか、名前、名前…まさか名前だけでここまで来たのか?調べて?
怖くなり返事もせずに部屋に篭った。
そのうちに諦めたのか女の声はしなくなっていた。
俺の人生は確実に狂い出す。
携帯電話には知らない番号からの着信が毎日のように続き、拒否をすると今度はメール。
一番恐ろしかったのは俺が家に帰ると先に侵入していたことだった。
当たり前のようにお帰りなさいと笑顔で迎えた女に俺は恐怖した。
この女はやばい、やばい。
恐怖から怒鳴り散らしながら追い返した時、俺は自分の指が震えていたことにやっと気付いた。
「え?ストーカー?」
「まじであの女は頭がおかしい、」
だからしばらく俺の家には来ない方がいい、アニューにそう言うと不安げな顔を浮かべていた。
俺だって不安なんだ、
不安、
「お帰りなさい、ロックオン、」
またいる。
今度こそ警察に、
青ざめながら携帯電話を手にした時、家の中からの異臭に気づく。
なんだこの臭いは、
生臭い、鉄のような、
「ロックオン、ごめんなさい、まだ片付けてなくて、」
「…、」
恐る恐る部屋へと向かい、その異臭の原因を目に映した時、全身から血の気が引いた。
「っうああああ!!アニュー!!」
そこには、胸を包丁で貫かれたアニューが横たわっていた。
「てめええ…!!なんでっ、こんな…!!アニューは関係ねえだろう!!」
がたがたと震え涙すら滲み絶叫した。
そんな俺に女はきょとんとした顔で口を開く。
「何でって、その人が邪魔だったからに決まってるじゃないですか、ロックオンの恋人は僕なのにあんな恋人面して、だから殺したんです、」
「…っ…!」
背筋が凍る。
この女はイカれてる、
狂ってる。
「でももう大丈夫、邪魔はされません、ロックオン、」
一歩、一歩と薄い笑みを浮かべながら近付いてくる女の瞳に捕らえられ、恐怖で身動きが出来ない。
「あいしています、ロックオン、」
女の冷たい手が、俺の頬に触れる。
世界は真っ暗に染まったようだった。
おわり
2009 12 19
よくある怖い話。
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