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短編
空(♀アレ/+刹那)
天気の良い日だった。
屋上へ上がりぼんやりと空を眺める。
腕を骨折してこの病院に来たが、病院なんていいものじゃない。
退屈だ。
「、」
誰かの足音がした。
振り向くと白い服を着た女が居る。
少女、いや、大人、どちらにも見えた。
青白い顔をして顔の半分を前髪で隠した女、頭と腕に包帯が巻かれている。
目が合うと薄く微笑んだ。
「いい天気だね、」
「…ああ、」
「名前は?」
「…刹那」
「せつな、刹那、いい名前だね、」
女はまた笑う。
「僕も此処に入院してるんだけど、病院て嫌だよね、」
「…」
女は刹那の隣まで来て同じように空を眺める。
「もう病院なんて来たくないのにね、」
そよそよと吹く風が女の髪を靡かせた。刹那はそれを横目で見、また空へと視線を戻す。
「、空って、不思議だよね、どうしてこんなに青いのかな、」
「さあな、」
「雲の上に天国があるって、言い出したのは誰なのかな、」
「…」
答えようのないことばかりを投げ掛けてくる女。
(…何なんだ、)
女は相変わらず空ばかり見ている。
「…じゃあ俺は、」
「見てて、刹那、」
もう行く、と続けるはずだった言葉は女に遮られた。
女は何をする気なのかフェンスを軽く飛び越え、笑顔で振り向いた。
「見ててね、」
「危険だ…!」
「いいんだよ、これで、」
ここは小さな病院であるが三階だ。落ちてしまっては命が、

「っやめろ!!」
刹那が女へと手を伸ばしたと同時に、女は、落ちた。
両手を広げ鳥のように。
「っ…!!」
刹那は血の気が引いた。
あの女は、一体何だ、頭がおかしくなっていたのか、あんな、笑顔で飛び降りるなんて、

「ってめえ!!」
胸倉を捕まれ、ガンッと壁に押し付けられる。
相手を見上げればあの女とよく似た男が刹那を鋭い瞳で見下ろしていた。
「てめえアレルヤと一緒に居たんだってなあ!?何で止めなかった!?アレルヤはっ…」
「っ…」
「ハレルヤ、やめなさい、」
ハレルヤと呼ばれた男を、茶髪の女が止める。
ハレルヤは唇を噛み締め、振り払うように刹那の胸倉から手を離した。
「…くそっ…、ああそうだ、てめえは悪くねえ、アレルヤから少しでも目を離してた俺が悪い、」
「…」
あれるや、
きょうだい、か、
刹那は気付く。
「…彼女は、」
「大丈夫、命は取り留めたの、此処あまり高さがなかったから、」
女は柔らかく、そして切なく笑みを向けた。男は未だ拳を握ったまま俯いている。
「…俺が止めていれば、…すまない、」
「、くそっ、」
顔を上げずに男は小さく呟いた。
「…、」

恐ろしい出来事だった、目の前で飛び降りるなんて。
あの女は、





「…刹那、」
ゆっくりと開いた瞳。
目の前で飛び降りてから一週間後、刹那は女の病室へと来ていた。
あのうるさい男は今日はまだ来ていないようだ。
「…」
「…おはよう、刹那、」
「…」
「あれ、無視、」
ただじっと見下ろし、女は困ったように笑う。
「…怒ってるの?そうだよね、驚いたよね、」
「…何故、」
「ん…?」
「何故お前は死のうとする、何故、」
「…」
女はその言葉を聞いて天井を仰いだ。
光に照らされた女の肌は一層青白く見える。
「…僕ね、付き合ってる人が居たんだ。すごく好きで、結婚しようねって、…でも、…死んだ、」
「…」
「空の色した瞳が綺麗だったのにもう目を開けてくれなかった、」
刹那は女と初めて会った時のことを思い出していた。
女の瞳にじんわりと涙が滲む。
「だから僕も彼と同じところに行きたいのに、どうしてか、死ねない、いつも助かってしまう、彼はあんなに簡単に死んだのに、っ、」
ついに涙を零し、女は刹那に背を向けて肩を震わせた。
「…、」
(そうだったのか…、)
気の利いた言葉は言えない。
少しの沈黙の後、刹那は思ったことを素直に口にすることにした。
「…死なせたく、ないんだろう、きっと、護られているんだ、」
死んだその男が、護ってくれているのだと。
「だから、もう自殺なんて、やめたほうがいい」
「…、」
女の弱い肩に刹那はそっと手を置いた。
「…刹、那、」
刹那の方は振り向かずに女が小さく嗚咽の交じった声で名前を呼ぶ。
「ほんと、に、そう、思う、?」
「ああ、…きっと、見てくれている、」
「…っ、」
女は声を上げて泣いた。肩に置いていた手に少しだけ力を込めて、刹那は、
「…あれるや、」
初めて、名前を呼んだ。

空の上に本当に天国とやらがあるのならば、
彼はそこに居るんだろう。






おわり

2009 9 26










Where is the HEAVEN'S DOOR ?


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