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短編
歌姫(♀アレ)
ある夜、インターホンがハプティズム兄妹の家に鳴り響いた。
インターホンを連打し、しまいには早く開けろと怒鳴り散らすこの男は誰だ。
アレルヤが怯えているとハレルヤがめんどくさそうに玄関の鍵を開けた。
「ハレルヤてめえええ!!!」
「おわっ、」
ドアが開くのと同時に殴りかかってきた青い髪。
その拳を避けてハレルヤはその男、ミハエルを見下ろした。
「何だよいきなり、あぶねーだろうが!アレルヤの前で!」
「ふざけんじゃねーぞてめえ!今日何の日か解ってんのか!?」
「知らね」
「ライブの日だろうが馬鹿野郎!電話にも出ねえし最悪だったぜこっちはよお!」
とにかく大声でハレルヤに怒りを露にするミハエルは相当頭に来ているようだ。
そんな様子をびくびくしながら見ているしか出来ないアレルヤ。
「もううんざりだ!少しギターうまいからって調子乗ってんじゃねえぞ馬鹿野郎変態シスコンがあ!てめえなんかとは組んでらんねー!俺は新しいギター見つける!」
「俺もてめえの下手くそな歌聴くのはうんざりだったんだ、さっさと出てけ!」
「死ね!」
まるで嵐のように去って行ったミハエルにほっと肩を撫で下ろしたアレルヤは、目線をハレルヤに移動させる。
「ハレルヤ、今日ライブの日だったの?なんだか話聞く限りじゃ絶対ハレルヤが悪いよ、」
「タリィんだよあんなバンド、」
「でも、ギター弾くハレルヤすごくかっこ良かったのに…、」
「…」
誘ってんのかよ、と小さく呟いた言葉はアレルヤの耳には届かない。

ハレルヤの友人パトリックはバンドを組んでいた。そのバンドメンバーが突然脱退し、パトリックが誘ったのがハレルヤだった。
ハレルヤも以前にバンドを組んでいたがメンバーとは長続きせずすぐに解散、そんなときにパトリックから声をかけられたのだ。
パトリックがドラム、ハレルヤがギター、ベースがリヒティ、そしてボーカルが先程来たミハエル。
ハレルヤとミハエルは初対面時から衝突が絶えず殴り合いなんてことも珍しくなかった。
「ちゃんと謝った方がいいよ、」
「何でだよ、俺は最初からあんなバンド抜けたかったんだ、確かにあいつは歌はうまいが性格が悪すぎる!やってけねえっつーの!」
「ハレルヤ、」
銀色の瞳が心配そうに見上げる。
ハレルヤはこの表情に弱かった。
「ハレルヤは音楽で食べていきたいって言ってたじゃない、そんな喧嘩ばかりしてたら叶うものも叶わないよ、僕ハレルヤには音楽続けてほしいし、」
「…」
うっ、と胸に優しく突き刺さるアレルヤの言葉、そして表情。
ハレルヤは暫くの沈黙の後、アレルヤに顔を向けた。
「だったらお前がボーカルやれ、」
「っえ!?なっ、何で!」
思いもよらないハレルヤの言葉にアレルヤは大きな瞳を更に大きくさせた。
「俺が今まで長続きしなかったのはお前が居なかったからだ、お前と一緒なら出来る」
「何言ってるの!ぼ、僕がボーカルなんて絶対絶対絶対無理だからっ!」
「無理じゃねえ、お前歌うまいし声綺麗だし可愛いし乳でかいし、」
乳がでかいとか置いといて、歌がうまいや声が綺麗と言われて悪い気はしない。
ほんとに?なんて内心少し浮かれ気味だったが、やはり人前で歌うのなんて、
「っ…ハレルヤがボーカルやればいいじゃないか!ハレルヤだってすごく歌うまいし…」
「俺がボーカルやったところで他のメンバーどうすんだ、」
「頑張って探せばっ、」
「頑張って探してすぐ解散か?俺はお前の歌声が好きだ、だからお前とやりたい」
「…」
「なーいいだろ?」
「…ハレルヤが喧嘩しなきゃいいだけの話だよ!と、とにかく僕やらないからねっ!」
ハレルヤは本気だった、にも関わらず物凄い勢いで断られてしまい、ハレルヤはハアと溜息を吐いた。
「お前の歌ならいくらでも弾いてやるのに、」







「ね、行こ!アレルヤ!」
「いいよ、僕は…」
「いいから行くのー!」
友人のクリスティナに腕を引かれ辿り着いた場所はカラオケボックス。人前で歌うことがあまり得意ではなかったアレルヤは帰ろうとしたがクリスティナが許さなかった。
「お待たせー!」
個室のドアを開け足を踏み入れると、そこには見覚えのある顔がいた。
「あ、」
「んがっ…!ハレルヤ!…の妹!?」
ミハエルだ。
その隣には赤い髪の女も座っている。
「遅いじゃんクリスー、あたしらもう歌い疲れて今休憩中ー、」
「ごめんごめん、ほらアレルヤ座って!」
「いや、僕やっぱり、」
「いいからいいから!」
ミハエルの顔を見てますます帰りたくなったが、やはりクリスティナが許さない。赤い髪の女、ネーナまでアレルヤの腕を掴み帰さなかった。
「アレルヤだよねー?あたしネーナ、」
「よ、よろし、」
「俺お前の顔見てると苛々してくる」
は?
ネーナとクリスティナがあんた急に何言ってんのよ馬鹿、と言いながらミハエルを睨むが、ミハエルの目はアレルヤを見つめ、そしてそらす。
「ハレルヤ思い出してすっげームカつく、」
「あっ…ハレルヤのことはごめんなさい!あんなこと言ってたけどハレルヤほんとは音楽続けたいって、」
「お前まず歌え」
「えっ、」
「ミハ兄ー、アレルヤがこんなに可愛いからって虐めちゃダメよ、」
「いいから歌え、」
やっぱり来なきゃ良かった!と涙まじりに選曲し、マイクを握る。
「アレルヤ大丈夫?」
クリスティナの問いには頷くだけ。
選曲したのは5年程前の女性シンガーのバラードだった。
深呼吸を数回繰り返し、アレルヤは口を開いた。
「…」
「アレルヤうまーい!」
「すごいアレルヤ!」
その響き渡る透き通った歌声にミハエルは聞き惚れた。
歌うアレルヤの姿が綺麗に見えて仕方ない。

カラオケを楽しみそれぞれがまた明日と手を振って別れる、アレルヤはやっと解散されたと溜息を吐いた。
うまいと褒められるのは嬉しいが、やはり慣れない。
とぼとぼと歩くその後ろ姿に、男の手が伸びる。
「おい、」
「っひゃああ!?」
肩を跳ねらせ声が裏返る。恐る恐る振り返ると、ミハエルがアレルヤを見下ろしていた。
「変な声出してんじゃねーよ、」
「っい、いきなり肩掴むから…!って、あれ?君、家こっちなの…?」
だかネーナの姿が無い。
嫌な予感がしアレルヤが顔を引き攣らせると、ミハエルはニヤリと笑った。
「お前、うちのバンド入れ」
「っえ、え?」
「ボーカルやれ、」
「…ええええええっ!?」
薄暗い道路にアレルヤのおかしな声が響き渡った。
首を横にぶんぶんと振り必死に拒否をする。
「い、意味わからないよいきなりっ!それに!バンドのボーカルって君なんでしょ?!何で僕!?」
「俺はギター出来るしそっちやる。カラオケでお前の歌声に惚れたんだ、そうだようちのバンドには花が無かったんだ、いや俺でも十分花あっけど女だよなやっぱ。それにお前よく見れば可愛いし乳もでけえし。つーことでお前ボーカル、はい決まりー」
「ちょ、」
いよいよ涙目になるがアレルヤに拒否権は無かった。
「明日メンバーに紹介すっから学校終りに今日のカラオケボックスで待ち合わせな」
「やだやだやだやだ!そんなっ、僕の意見はっ、」
がしっ、と肩を掴まれ顔を近付けるミハエルに、アレルヤは一瞬固まった。
「バンドに入るか今此処で犯されるか、どっちがいい?」
「っう…」
サラっと恐ろしいこと言い放ったミハエルの目は本気だった。
そこで先日ハレルヤが言っていたことを思い出す、性格わるすぎ、ああそうだ性格わるいよこの人、
今思い出しても遅い。
「ボーカル、やるよなあ?」
「っう、うん、」
「そうだよなあ!いやー良かった良かった!」
ミハエルは途端に明るく笑顔になり、アレルヤの頭をぽんぽんと叩く。
「じゃあな、明日忘れんなよ!」
「…」
一人上機嫌に帰っていくミハエルの背を見つめ、アレルヤは青ざめた。
「ど、どうしよう…っ!」
ハレルヤに言ってしまおうか、けどそんなことを知ったらハレルヤはまたミハエルと喧嘩するだろう、
「うう…、」
とりあえず家に帰ろう、重くなった足を進めた。

が、家に着くとハレルヤが玄関でアレルヤを待っていた。
「さっきミハエルから電話があった、」
「え!?早速!?」
「てっきり嘘かと思ってたがその反応見るとどうやらマジらしいなあ…、」
「…」
ハレルヤの鋭い目が更に鋭くなりアレルヤを見下ろしている。
「俺のボーカルにはなってくれねーのにあいつのにはなるのか、」
「違っ…無理矢理だよ!じゃなきゃ犯すって言われて…」
「っなあ!?」
鋭かった目がカッと見開き、ハレルヤの背後には炎が燃え盛った、ようにアレルヤには見えた。
「ハレルヤ!落ち着……あ!そうだ!」
「あ!?」
何かを閃いたアレルヤはハレルヤの手を握り、笑顔でハレルヤを見上げた。




翌日の放課後、
約束の場所に現れたのはアレルヤとハレルヤ。
ミハエルの表情が歪む。
「何でてめえが!」
「ハレルヤ!戻ってきてくれるのか!」
「やっぱりハレルヤが居なきゃダメっすよ!」
パトリックとリヒティは喜んでいる様子だが、ミハエルはむっすりと顔をしかめている。
「おいアレルヤ、何でハレルヤまで連れてきた、」
「あの、」
「アレルヤを気安く呼んでんじゃねーよクソが」
「ああ!?」
「ハレルヤ!そういう言い方が駄目だって言ったじゃない!」
「うっ…」
流石のハレルヤも妹には弱いのか、三人は思った。
ハレルヤに向けていた目線を三人へ戻し、アレルヤは真剣な表情を浮かべた。
「ボーカルになってあげてもいいです、けどハレルヤも一緒じゃなきゃやりません、」
「はあ!?」
アレルヤの条件、それはボーカルになる代わりにハレルヤをまたバンドに入れるというものだった。
自分がボーカルになるという不安よりもハレルヤに音楽を続けてほしいという気持ちの方が大きく、この話を切り出したのだ。
ハレルヤも渋々納得し、今この場で反対しているのはミハエルだけである。
「女ボーカルかーいいじゃんか!」
「なんか雰囲気変わるし!ハレルヤも戻って来たし!ミハエル、何も問題は無いっすよ!」
「…」
バチバチッ、ハレルヤとミハエルの間には火花が散っている。
「…俺がアレルヤの傍に居なきゃてめえが何仕出かすかわからねえからな、仕方なくだ仕方なく、自惚れんなよ、」
「…俺が欲しいのはアレルヤだ、てめえはオマケだからな、覚えとけ、」
火花は未だに散っていたが、戻って来たギタリストと新たな歌姫をメンバーは笑顔で迎え入れた。

(勢いで決めちゃったけど…大丈夫かな…、)

期待よりも不安の方が大きかったが、とりあえずハレルヤがバンドに戻ってくれて良かった、と思った。








おわり

2009 6 25












バンドもの大好きだから書いちった。
ボーカルはハレルヤもいいよな!

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あきゅろす。
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